離れと母屋を中庭で繋ぐ贅沢な空間
「自然と人の豊かな共存」を叶える住まい

「子どもには豊かな住環境で育って欲しい」。建築家の鈴木雅也さんは、そんな想いから自身の家づくりをスタートさせた。自然と調和する開放的な住宅を目指して最終的に辿りついたのは、敷地の中庭を中心に据え、建物を2棟に分けるという独創的なプランである。大きな開口部からは中庭の植栽と、公園の桜の木を臨み、南北に風が抜ける……。そんな「仲井町の家」について、紹介しよう。

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「住環境は子どもの成長に影響する」
そんな想いから家づくりを決意

もともと賃貸マンションに住んでいたという、建築家の鈴木雅也さん。仕事柄いつかは自分の家を建てたいと思っていたが、実現に向けて動き出す決意をしたのは、「2人の子どもにもっと良い住環境を」……と考えたことが理由だった。
「子どもは感受性も高いですし、いろいろなことを吸収します。それだけに、小さい頃に住んでいた住環境は、成長する上で大きな影響を与えると思ったんです。子どもたちも9歳と4歳と大きくなってきていましたので、家を建てることを決めました」。
そう話す鈴木さんは、幼少時、江戸川沿いの自然豊かな場所に住んでいたそう。そのときの思い出が今も色濃く残っていることから、新たな家づくりのテーマは「自然と調和した開放的な家」に決まった。
そこから土地探しを始め、最終的に決まったのは、鈴木さんの故郷でもある松戸。高台に位置する公園に面した土地だった。崖の上にあるため杭工事が必要など費用的な負担はあったが、昔ながらの住宅街といった雰囲気も気に入り、購入を決めたという。

プランを立てるにあたりまず考えたのは、自身の仕事場の確保だ。賃貸マンションに住んでいたときは、部屋の1つを事務所として使っていたという鈴木さん。同様に建物の中の1室を事務所にすることも考えたが、それだと来客のときに気を遣う。そこで「敷地内で居住空間と事務所を2棟に分けたら、魅力的な空間づくりができるのでは……」。というアイデアを思い立ち、どんどん発想を広げていったという。
  • エアコンが内蔵されている仕切り家具の上からダイニング側を見たところ。中庭の向こうに配されているのが事務所として使っている離れ

    エアコンが内蔵されている仕切り家具の上からダイニング側を見たところ。中庭の向こうに配されているのが事務所として使っている離れ

  • 障子を全開放すると、中庭とその奥の離れを一望する開放的な空間が広がる

    障子を全開放すると、中庭とその奥の離れを一望する開放的な空間が広がる

仕事場である書斎と居住スペース
2つの空間を中庭で繋ぐプランニング

こうして生まれたのが、居住スペースである母屋と事務所である離れを別々に建て、その間を部屋の延長線であるかのような中庭で繋ぐというプランである。母屋、離れ共に、中庭に面する窓は全面開放仕様となっており、開け放つと半戸外のような空間が完成する。
「建物を建てるときは、床面積に応じてお金がかかります。そういう意味でいくと、中庭はお金がかからないんです」と話す鈴木さん。この中庭は、プライベートと仕事の空間を分けるだけでなく、全体的なコストを下げる役割も果たしているそうだ。
建物の配置を決めるにあたっては、まず道路側に離れを設置。こうすることで母屋を道路から離し、心理的にプライバシーを確保した。ちなみにこの離れはシンプルなワンルーム。将来的にレンタルスペースやギャラリー、そして先々両親の介護が必要になったときは、両親の居住スペースとするなど多様な利用ができるように考えているという。
そして、居住スペースとなる母屋棟をつくるうえで鈴木さんが配慮したのが、風の通りだ。南から北に抜けて風が抜けるよう、東西方向にはほぼ壁がない。エアコンは1階の床下エアコンと、2階の天井に設置した2台のみ。この2台が全館空調の役割を果たし、室内を通り抜ける風と併せて室内の空気や環境を快適に保つのだという。
「『仲井町の家』には、この風のエレメントのほかに、火のエレメントとして薪ストーブがあり、水と土のエレメントとして中庭に水鉢(メダカ有り)、生い茂る樹木があるので、風、火、水、土という4元素があり、刺激的な日々を送ることができます」。と話す鈴木さん。人と自然が共存するための4元素を家づくりに入れ込むあたりが、鈴木さんならではのこだわりといえるだろう。

具体的な間取りを見ていこう。まず母屋は、4間角の正方形のプラン。床面積も100平米ほどあり、子どもがのびのびと成長できる広々とした空間を確保している。1階に配置されているのは、開放的なリビングと、中庭に面したダイニング。土地の段差を活かし、リビング側をダウンフロアとし天井を高く設定している。ダイニングとリビングの間にはそれぞれの空間を仕切る造作家具があり、床下エアコンやテレビが入っているのだという。
2階に向かう階段の踊り場に小さな書斎コーナーや読書用のベンチが設けられており、ちょっとした居場所が点在している。2階は作業スペースのある廊下を挟んで寝室と子ども部屋、水廻りとウォークインクローゼットいったプライベートな空間が配置されている。子ども部屋は現在2人の子どもが共用で使っているが、将来的に二つに分けられるようになっているという。
  • ダウンフロアのリビングにあるソファスペース。大きな開放部からは公園の桜の木を眺めることができる

    ダウンフロアのリビングにあるソファスペース。大きな開放部からは公園の桜の木を眺めることができる

  • 道路から見た玄関。母屋に行くにはさらに中庭を抜ける必要がある。この心理的距離が、防犯という観点でも有効なのだそう

    道路から見た玄関。母屋に行くにはさらに中庭を抜ける必要がある。この心理的距離が、防犯という観点でも有効なのだそう

  • 中庭側から見たダイニング。この空間だけは壁も天井も真っ白な漆喰塗りを採用した

    中庭側から見たダイニング。この空間だけは壁も天井も真っ白な漆喰塗りを採用した

  • 離れ。現在は鈴木さんが書斎として使っているが、将来的にはギャラリーやご両親の居住スペースにもできるようシンプルにつくられている

    離れ。現在は鈴木さんが書斎として使っているが、将来的にはギャラリーやご両親の居住スペースにもできるようシンプルにつくられている

時を経て変化していく住まい
メンテナンスも楽しみのうち

完成した家に、鈴木さんご家族も大満足だそう。しかし、ただ1つ、面倒なことがあると話す鈴木さん。仕上げ材に自然の杉、ヒノキ、漆喰などの自然素材を使用しているほか、開口部も大きいため、家のメンテナンスにはそれなりの手間や配慮が必要だという。しかし、「この面倒が逆に楽しい」というのが、鈴木さんの意見。「家が、そして家族が、時を経てどのように変化していくのか、共に生きてゆくのが楽しみです」と、笑顔で語ってくれた。大きな窓を家族で拭いたり、庭木に水を与えたり……。その作業ひとつひとつが鈴木家の大切な思い出となるのだろうし、子どもたちの豊かな感受性を育てていくのだろう。
  • 離れから中庭を見たところ。少しずつ植栽が育ち、将来的にはもっと緑豊かな空間が広がる予定だという

    離れから中庭を見たところ。少しずつ植栽が育ち、将来的にはもっと緑豊かな空間が広がる予定だという

  • 中庭側から見た夕暮れのダイニングの様子。中庭と母屋の空間がみごとに連続しており、半戸外のような空間になっている。

    中庭側から見た夕暮れのダイニングの様子。中庭と母屋の空間がみごとに連続しており、半戸外のような空間になっている。

撮影:鈴木 研一

間取り図

  • 平面図

基本データ

作品名
仲井町の家
施主
S邸
所在地
千葉県松戸市
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
165.5㎡
延床面積
母屋:100.48㎡ 離れ:25.1㎡ 計:125.63㎡