土手下の三角の土地に理想の我が家を
ウイークポイントを個性に変える匠の技

家づくりにおいて土地条件は大きな要素だ。広さ、形状、高低差などの理由から、思い描いていた家が建てられないということもよくある話。「土手下の三角の土地」での建て替えを計画したIさんご夫妻。ハウスメーカーや工務店などと話をするも、希望通りの家にはなりそうもなかったという。そんな中、一縷の望みをかけたのが、土地のもつ力を巧みに利用し、快適な空間を作りだす匠、ア・シード建築設計の並木さんでした。

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土手下の三角の土地に理想の我が家を
匠の力に可能性の光を感じた

葛飾区青砥。戸建て住宅が多く並び、スーパーや商店なども数多くある、暮らしに便利な下町風情を感じられる街。その一角に、このあたりに住む人ならば「赤い三角屋根の家」といったら「ああ、あそこ」と、すぐにわかるほどランドマークになっている家がある。道路からも電車からも、さらには川を行きかう船からも、すぐに見つけられるI邸だ。

三角屋根というと、本を半分開いて伏せたような切妻屋根を想像する人も多いだろう。しかしI邸は、屋根そのものが三角形の片流れ屋根だ。一般的な住宅では珍しいこの屋根形状にしたのには理由がある。それは、土地が三角だったから。
I邸の建つ土地は中川の土手べりにあり、住宅と土手に囲まれた三角の敷地。以前の住宅は、橋の架け替えに伴う区画整理により、道路から3.5m低くなっており、アプローチは階段を上り下りせねばならないというものだった。そのため、工事の難易度も高く、接道問題や高さ制限、河川敷に接することで、国への手続きなど、煩雑な作業も必要だった。

この土地での建て替えを検討していたIさん夫妻。50代になり、将来足腰が弱くなってくることを見据えると、できるだけ1フロアの広い2階建てを希望していた。そんな思いを持ち、ハウスメーカーや工務店を訪ねたところ、どの会社も敷地の大きさと形状から3階建ての提案が多く、2階建てプランでは部屋数が確保できないというものだったという。
「やはりこの土地では無理なのか?」と半ばあきらめかけていたIさん夫妻。一縷の望みをかけ、連絡をとったのが、土地の持つ力を最大限に活かし、施主にあった暮らしができる家づくりに定評のある建築家、ア・シード建築設計の並木さんだった。

「お話をお聞きして、その場で『三角の土地で面積や方角が厳しくても、こういう考え方、こういう方法で解決できます』などと、私の家づくりをお話させていただきました」と並木さん。その後ほどなくして「家づくりをお願いしたい」との一報が届いたという。
Iさん夫妻は「並木さんならなんとかしてくれる」と思ったに違いない。並木さんが、お2人とっては大きな光に感じたことだろう。
  • 中川の土手べりに佇むI邸。赤い三角屋根は、歩いていても、車や電車に乗っていても、さらには川を行きかう船からも目立つ、地域のランドマーク。

    中川の土手べりに佇むI邸。赤い三角屋根は、歩いていても、車や電車に乗っていても、さらには川を行きかう船からも目立つ、地域のランドマーク。

  • 三角の敷地一杯に建てたI邸。1階は壁の一部を三角に切り取ったような開口で、2階は高い位置の窓で、外からの視線を遮りながらも、中からの眺めと採光を実現。

    三角の敷地一杯に建てたI邸。1階は壁の一部を三角に切り取ったような開口で、2階は高い位置の窓で、外からの視線を遮りながらも、中からの眺めと採光を実現。

  • アプローチは、道路側にフラットなカーポートから。外階段で道路から直接1階に行ける動線もあり、将来1階をカフェとして使ったときにも安心。

    アプローチは、道路側にフラットなカーポートから。外階段で道路から直接1階に行ける動線もあり、将来1階をカフェとして使ったときにも安心。

敷地一杯の三角の建物で最大の床面積を
奥様の夢であるカフェにもできる可変性

こうして始まったI邸の家づくり。並木さんはどういったプランを考えたのだろう。
三角形の土地では、ハウスメーカーや工務店が提案したように、土地の中央に四角い建物を配置するのが、ある意味セオリーといえる。しかし並木さんは、あえて敷地一杯の三角形の建物を計画した。こうすることで、1フロアの床面積を最大化することができ、Iさん夫妻が望んでいた2階建てでも十分な広さを確保できる。
そのうえで、空間の広い部分にはリビングなど、人が集まる区画を、デッドスペースになりがちな細くなる部分には、納戸や脱衣所、バルコニーなど、形が変形であっても影響の少ない機能を配置した。

玄関は道路からフラットに入れるように2階に計画。これは将来、車椅子生活などになった場合も支障がないようにという配慮だ。2階には、2人のお子さんの部屋と風呂場や洗濯水回り、そしてデッキに面したセカンドリビング。1階はメインのLDKとIさん夫妻の寝室というつくり。

1階へは、室内階段からも行き来できるが、カーポート脇の外階段でも降りることができる。
それは、奥様の「将来的にカフェをやりたい」という夢を叶えるためにも有効なもの。1階リビングの場所がそのカフェのスペースだ。お客さんが、玄関を通らずに直接1階の店舗へと降りることができる。さらにこのカフェは、1階ピロティとカーポート下のスペースも「テラス席」として利用できるよう考えられている。

さらにこの可変性は2階にも。2人の息子さんたちが巣立った際には、2つの個室を繋げ1つの部屋に。ここを自分達の寝室とし1フロアだけの生活に移行することもできる。それを踏まえ、2階のフリースペース(ワークスペース)は、キッチンに改造できるようになっている。

そして、この家の外観を際立たせる要素の1つである三角屋根の提案にも秘密がある。敷地形状とのマッチングや斜線規制への対応でもあるが、実用面でも果たす役割は大きい。2階の空間に高い部分と低い部分を設けることによって、空間に「抜ける」「籠る」を両立させ、より空間の広がりを感じさせるのだ。また、三角屋根の頂点付近には開閉できるトップライトを設置。その下を階段とすることで、光を1階まで導く。
さらにこのトップライトは、風の通り道でもある。日陰になる1階や2階の窓から風が入り込み、温まった空気がトップライトから抜けていく。階段とトップライトが、煙突のような役割を果たすのだ。住宅にパッシブデザインの要素を巧みに取り入れることのできる並木さんならではの技だ。また、この三角屋根は、デザイン面でも役立っている。この三角の屋根は船の帆をモチーフにしているという。川べりに建つ家が、まるで川をゆっくりと進む帆船のうにも感じさせてくれる。

三角屋根という、一見すると奇抜なデザインとも感じられるものに、いくつもの機能とこの場所ならではのデザイン性を兼ね備えてみせた、並木さんの力量には驚かされる。
このプランにIさん夫妻も「本当にこんな家が実現できるなら、これほどうれしいことはない」と、ほぼ原案通りの採用となったという。
「話し合いの中で『こういった空間づくりをしましょう』というお互いの想いやイメージを共有できていたから、提案が目に見える形となったことで、さらにご納得いただけたのだと思います」と並木さん。
  • 2階の玄関やリビングは、道路側からの視線を遮りつつ、風を通すように木の縦格子に。

    2階の玄関やリビングは、道路側からの視線を遮りつつ、風を通すように木の縦格子に。

  • 玄関前のデッキスペースは、玄関ポーチとアウトドアリビングを兼ね備える。この開口から一番奥のバルコニーまでが1つの空間となり、視線の抜けや空間の広がりをもたらすとともに、風の通り道にもなる。

    玄関前のデッキスペースは、玄関ポーチとアウトドアリビングを兼ね備える。この開口から一番奥のバルコニーまでが1つの空間となり、視線の抜けや空間の広がりをもたらすとともに、風の通り道にもなる。

  • 光あふれる2階のリビングは、お父さんの寛ぎスペース。勾配天井で高低差がある空間で、奥行きと開放性が感じられる。

    光あふれる2階のリビングは、お父さんの寛ぎスペース。勾配天井で高低差がある空間で、奥行きと開放性が感じられる。

  • フリースペース・ワークスペースとして使用しているカウンターは、将来取り外してキッチンに改造できるようになっている。ここでお酒を飲みながら隅田川花火を見るのが年中行事なのだとか。

    フリースペース・ワークスペースとして使用しているカウンターは、将来取り外してキッチンに改造できるようになっている。ここでお酒を飲みながら隅田川花火を見るのが年中行事なのだとか。

  • 3つの窓それぞれに、電車、空、橋と違った景色が見えるという。日々の時間の移ろい、季節の変化など、同じ場所でありながらもこれまで得られなかった眺望が楽しめているという。

    3つの窓それぞれに、電車、空、橋と違った景色が見えるという。日々の時間の移ろい、季節の変化など、同じ場所でありながらもこれまで得られなかった眺望が楽しめているという。

少ないエアコンでも抜群の快適性
人目を気にせず窓外の景色を楽しめる生活

こうして出来上がったI邸を見ていこう。
「三角屋根の赤い家」は、歩いていても、車に乗っていても、さらには電車や船からも、一目でわかる、地域のランドマーク。

道路からカーポートを経由して邸内へと進む。木の縦格子の塀が、ほどよく外からの視線をカットしてくれる。門扉を開けるとデッキスペースが広がる。このデッキは、玄関ポーチでもあり、2階のセカンドリビングを延長するアウトドアリビングでもある。

邸内に入ると、デッキに面した窓から光がふんだんに入るセカンドリビングが広がる。テレビを置き、スポーツ観戦が趣味のIさんのお気に入りの場所なのだとか。
視線の先には、等間隔に開けられた窓から、川沿いの景色が見える。この窓の配置、土手を歩く人々からは中の様子が伺えないものの、中からは遠くの景色まで見渡せる絶妙な配置。川べりというロケーションを最大限に活かしている。

「川に面した窓は、それぞれ橋や空や電車など見えるものが違い、景色も移り変わるので、思わず写真を撮りたくなる」とIさんが言うように、以前の家と同じ場所でありながら、これまで得られなかった景色を楽しむということをもたらした。

窓の下は、現在はカウンターを設置し、ワークデスクや化粧台になっている。将来、ワークカウンターをはずして、キッチンを設置することを見据えた空間だ。
隅田川の花火大会の日には、快適な室内で、このカウンターでお酒を飲みながら、土手に集まる人々の頭越しにその様子を眺めるのだという。なんともうらやましい限りだ。

視線を左へ移すと洗面台があり、その奥に洗濯機置き場と脱衣所があるという。もっとも狭くなっている場所には、バルコニーがあり、2階リビングとバルコニーが一直線につながる。光や風、視線の抜けがもたらされている。
背面には、2人の息子さんの個室が並ぶ。間仕切り壁の厚みを活かした本棚の裏側がクローゼットになっている。本棚の裏は、合板一枚だが服がかかることで防音性が高まるという工夫もなされているという。
ここは将来、2部屋の間の壁を取り払い1つの部屋とすることで、足が不自由になった際に、1フロアで生活が完結するよう配慮がなされている。

階段を下り1階へと進む。階段上のトップライトから光が降り注ぐ。さらにこの階段とトップライトは、風の通り道ともなる。
「このトップライトを開けると、1階2階の窓から風が入り、上へ抜けていくので気持ち良い」「真夏も真冬でも1階2階1台ずつのエアコンで快適に過ごせている。それ以外の季節は、自然の風や日の温かさで過ごせる」と、Iさんが言うように、断熱をしっかり施し風の通り道を作ることで、自然の力を上手に活用した快適さがもたらされている。パッシブデザインを得意とする並木さんの力量が遺憾なく発揮された。

1階に広がるのが、落ち着きと温もりを感じられる空間のLDKだ。外に向かって大きな開口が設けられ開放感もある。外から丸見えにならないか不安になるが、心配ご無用。上階のカーポートやデッキが庇の役割を果たすため、外からの視線を遮ってくれる。植えた木が育ってくれると、さらに良い隔たりができるという。ロールスクリーンを途中まで降ろすことで完全に視線を遮りながら庭への広がりをつくることも可能だ。
将来、ここがカフェとなった際は、カーポートの下やデッキ部分がオープンカフェのように利用できる。道路から階段を下りた先にカフェがある。隠れ家的カフェで落ち着いた寛ぎ時間を過ごしてもらいたい。そんな奥様の夢も、ここならば叶うだろう。

土手上から見下ろされる形のLDK側は、プライバシーに配慮しあえて窓を設けず、木の格子状のデザインとした。その一方で、壁の一部を三角にへこませる形で2つの窓を設けた。1つが洗面所、もう1つが主寝室。こうすることで、土手上の道を歩く人と視線が合いにくい角度で光を取り入れることができる。洗面所は個室ではなく、LDKの一部を間仕切りしたもの。この洗面所からの光がLDKにももたらされる。
「連続した空間の抜けと、川の上の空の抜けを感じながら、朝の爽やかさを感じている」とIさん。

キッチンは「見せずに収納」を基本とした。裏側に大きな収納を設け、扉を閉めることで、調理機器や食器などを消して、すっきりと見せることができる。「見せずに」という点では、エアコンも家庭用エアコンを天井に埋め込み設置している。

この家の出来栄えに「良い意味で生活感の出ないおしゃれな生活を送れている」「土地を最大限に活かした開放感ある家が気に入っている」とIさん夫妻もコメントを寄せてくれた。
理想的とはいえない土地の条件で、一旦はあきらめかけたIさん夫妻の理想の家づくり。しかし並木さんに出会ったことで、その望みが叶い、想像以上の生活を送っているに違いない。

「こんな土地では無理だろう」「ハウスメーカーや工務店では難しいと言っていた」「建築家に頼むなんて敷居が高い」と考え、理想の家づくりを妥協してしまう人も多いことだろう。でも、あきらめるなんてもったいない。

並木さんは、どんな困難な条件でも、その土地のウイークポイントを個性へと昇華してくれる。理想の家づくりの第一歩は、並木さんに連絡をとることなのかもしれない。
  • 階段上のトップライトは、光を降ろすだけでなく、風の通り道に。家の中で最も高い位置に設けることで、熱い空気が効率良くトップライトから抜けていき、1階2階の涼しい空気が取り込まれていくという。パッシブデザインの匠、並木さんだからこそ成しえた技。

    階段上のトップライトは、光を降ろすだけでなく、風の通り道に。家の中で最も高い位置に設けることで、熱い空気が効率良くトップライトから抜けていき、1階2階の涼しい空気が取り込まれていくという。パッシブデザインの匠、並木さんだからこそ成しえた技。

  • 1階リビングは大きな開口があるものの、2階のカーポートやデッキが庇となり、外から見えにくい。透過性のロールスクリーンも仕込んであり、夜やプライバシーにも対応可能。

    1階リビングは大きな開口があるものの、2階のカーポートやデッキが庇となり、外から見えにくい。透過性のロールスクリーンも仕込んであり、夜やプライバシーにも対応可能。

  • 木の温もりと落ち着きを感じられるLDK。土手側は、壁に窓を設けず、木の縦格子で外の格子と連続させ、内外一体の広がりのあるデザインになっている。

    木の温もりと落ち着きを感じられるLDK。土手側は、壁に窓を設けず、木の縦格子で外の格子と連続させ、内外一体の広がりのあるデザインになっている。

  • 造作で作ったキッチンは、リビング側を本棚に。カフェへの変更にも配慮し、エアコンは家庭用を天井に埋め込むなど、スッキリとさせた。

    造作で作ったキッチンは、リビング側を本棚に。カフェへの変更にも配慮し、エアコンは家庭用を天井に埋め込むなど、スッキリとさせた。

  • ステンレスで造作したキッチンは、コストを抑えながら存在感を出している。収納は「見せずに収納」を基本とし、背面に大容量収納を確保し、調理後はモノを消しダイニングを寛ぎの空間に変える。

    ステンレスで造作したキッチンは、コストを抑えながら存在感を出している。収納は「見せずに収納」を基本とし、背面に大容量収納を確保し、調理後はモノを消しダイニングを寛ぎの空間に変える。

  • 壁の一部を三角に切り取り、窓を確保。洗面スペースはLDKを高さ1.8mの衝立で間仕切った一体空間。開放感抜群の空間で、爽やかな朝を迎えられる。

    壁の一部を三角に切り取り、窓を確保。洗面スペースはLDKを高さ1.8mの衝立で間仕切った一体空間。開放感抜群の空間で、爽やかな朝を迎えられる。

間取り図

  • 平面図

基本データ

作品名
川辺の三角の家
施主
I邸
所在地
東京都葛飾区
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
116.87㎡
延床面積
121.22㎡
予 算
4000万円台