歴史ある建物を残し、庭の景色も楽しむ
これからの時を新築戸建と共に

広い敷地に築100年を超す母屋と離れをもち、立派な日本庭園を有しているT邸。宝ともいえるこれらを残しつつ、現代に合った暮らしをしたいという家族の一大プロジェクトを任されたのは、その豊富な経験と手腕で、テレビの出演や多くの受賞経験を持つ匠、並木秀浩さん。「庭の景色を活かす」「旧宅を残す」という難問を解決するため、並木さんがとった方法は、新旧2つの庭を立体的に繋ぐというコンセプトでした。

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住戸の新築、改修から賃貸住宅の建築まで
家族の大プロジェクトを任される実力

長さ30mはあろうかという威風堂々たる風格の大邸宅T邸。元は農家だったという広大な敷地を守る塀のようにも感じられる。この家を設計したのは、豊富な実績と確かな家づくりから、まさに「匠」と呼ばれるに相応しい建築家、ア・シード建築設計の並木さん。

実は並木さんが依頼をされたのは、この家の設計だけではない。

T邸は、その広い敷地の中に築100年を超える母屋と離れ、さらには先代が整えたという立派な日本庭園をもっていた。母屋と離れは、十分な広さはあるものの、断熱性能などの面において、現代の生活にマッチしなくなっていた。また、日本庭園もその面積の大きさから手入れの大変さが感じられるという悩みを抱えていたという。しかし、Tさんにとっては、庭も旧宅も家族の歴史の詰まった宝物。できるだけ残したいと考えていた。

古いものを壊し、新しい住宅を建てるという単純な話ではない。T家の培ってきた庭や建物さらには歴史を残しながら、どう現代の暮らしを実現させ、さらにはどう次代に繋いでいくか、家族の将来をも担う一大プロジェクトなのだ。

並木さんが提案したマスタープランの柱は大きく4つ。敷地の一部に賃貸住宅2棟を建て、将来の相続への備えや、収益機会を確保する。既存の建物のうち、Tさんのお父さんが住む母屋は、現在のテイストを保ちつつ、断熱材を入れるなど全面的に改修する。Tさんの住まいとなっていた、元は納屋だったという離れは、古民家テイストを生かしたホールとして再生。奥様の営むピアノ教室の場として活用するとともに、時間貸しホールとして地域の人々が利用できる場とすること。そして既存の建物の横に、Tさんの新居となる住宅を建設するというものだった。こうすることで、日本庭園や既存の建物を残し、さらなる価値をもつ住環境となるのだ。

一般的に、集合住宅をつくる際は専門のデベロッパーに依頼をすることが多い。それは、戸建てとは法規制が違うなど、専門性を必要とするから。また、建物を設計するという能力だけでなく、資金や収益といったマネープランに対する知識も必要となるからだ。

並木さんはこれまで、戸建て住宅や別荘の新築・リノベーションはもとより、幼稚園・保育園といった公共施設、ショールームやカフェ、クリニックなど多種多様な建物を作ってきた。その豊富な経験と知見があるからこそ、T邸のような集合住宅の建設を組み込んだプランも提案できるのだ。並木さんの仕事の幅広さに死角はないといっても過言ではないだろう。
  • ホールへのエントランス兼自転車置き場。スリット状の窓から漏れる光が幻想的な雰囲気に

    ホールへのエントランス兼自転車置き場。スリット状の窓から漏れる光が幻想的な雰囲気に

  • 1階から3階へと続く階段は、トップライトからの光を下ろす役割と、風の通り道の役割を果たす。光が作り出す陰影の模様も美しい

    1階から3階へと続く階段は、トップライトからの光を下ろす役割と、風の通り道の役割を果たす。光が作り出す陰影の模様も美しい

  • 明るく広々としたダイニングキッチン。その先には、庭を眺められるリビングを設けた

    明るく広々としたダイニングキッチン。その先には、庭を眺められるリビングを設けた

新旧2つの庭を立体的に繋ぎ
新居からも庭を楽しめる住宅に

それでは、並木さんが作った新T邸を見てみよう。
外観は威風堂々たる落ち着きをもつものの、ホワイトとグレーのモノトーンカラーで圧迫感を感じさせない。窓をスリット状にしたデザインは、隣接する賃貸住宅と統一感をもたせている。

1階は、広々としたガレージや倉庫、納戸を配置。離れへのエントランスと、玄関へのアプローチ導線を分け、プライバシーにも配慮した。2階には個室を並べ、リビングやキッチン・ダイニングは3階とした。

家族が最も長い時間を過ごすであろうリビングなどの空間をあえて3階にしたのには理由がある。それはリビングからの眺望。この新居は、母屋や離れの裏手に建っているため、2階からだと眺望が望めないのだ。一方3階であれば、母屋と離れの間の通路や屋根の傾斜部分に「抜け」がある。並木さんは、その部分にリビングを持ってくることで、庭にある池が望めるようにしたのだ。

さらに並木さんは、もう1つの工夫を凝らす。それは屋上に空中庭園をつくること。屋上に立つと近景である屋上の樹々が目に入り、視線の先には母屋・離れの屋根越しに日本庭園の樹々が見えてくる。新旧・上下2つの庭が立体的につながる、絶好の眺望を生み出した。

また、屋上には露天風呂も設けるという遊び心も。庭の景色はもちろん、遠くには東京スカイツリーを眺めながら湯に浸かるという、なんとも贅沢なひとときを過ごせるに違いない。

この家の工夫は、もちろん眺望のみに留まらない。並木さんが得意とする自然環境を上手に利用したパッシブデザインの要素も盛り込まれている。この家では、1階から3階までの階段部分は吹き抜けとなっている。庭の樹々によって冷やされた涼しい空気と母屋・離れの陰となり、日の当たる部分より冷たくなっている空気を取り込み、階段を通じて2階、3階へと導く風の導線をとしたのだ。この自然通風により、省エネも実現しているというのだから驚きだ。

一方の離れは、元々2階建てだったものを大きな1つの空間とした。太い梁や柱を現しとし、日本家屋のもつ力強さを表現。扉を開くと眼の前には日本庭園が広がる、なんとも贅沢な空間。施主Tさんは、ここを「空の杜」と名付けたホールとした。奥様が携わるピアノ教室のレッスンの場として活用するほか、時間貸しホールとして地域の人々にも開放しており「隠れ家的、古民家ホールとして使い勝手がよい」「庭の景色が素晴らしい」と評判なのだという。

古民家をただ残すというだけでなく、人々に開放し庭の景色とともに愉しんでもらえるようにした、Tさんと並木さんの考えはなんと素敵なことだろう。100年前からこの地に存在しつづけてきた歴史ある建物を、地域の人々からも愛される場に生まれ変わらせたのだ。

並木さんの家づくりは、土地を読み、自然環境を活かした住心地の良い家、デザイン性の高い建物をつくることに留まらない。歴史ある建物の価値を高め、そこに住まう家族や地域住民にも愛される「場」に仕上げるのだ。

並木さんは、これからも建物づくりを通じ、人々の笑顔を生んでゆく。
  • ダイニング脇のバルコニー。屋上へは、ここの階段を回り込むようにして上る

    ダイニング脇のバルコニー。屋上へは、ここの階段を回り込むようにして上る

  • ダイニングの隣には、畳敷きの居間を設けた。離れと母屋の屋根の傾斜の間から日本庭園が見えるよう設計したという

    ダイニングの隣には、畳敷きの居間を設けた。離れと母屋の屋根の傾斜の間から日本庭園が見えるよう設計したという

  • 空中庭園には、露天風呂も設置。近景の緑や視線の先の庭の景色を見ながらの入浴は最高に違いない

    空中庭園には、露天風呂も設置。近景の緑や視線の先の庭の景色を見ながらの入浴は最高に違いない

  • 昔ながらの佇まいを残す母屋と離れ。母屋も断熱を施すなどして姿はそのままに、快適性を高めたという

    昔ながらの佇まいを残す母屋と離れ。母屋も断熱を施すなどして姿はそのままに、快適性を高めたという

  • 敷地の一部に建てられた2棟の賃貸住戸。賃貸住戸からは、庭にいる人の様子がうかがえず、庭の木々だけが見えるように視線をコントロールした

    敷地の一部に建てられた2棟の賃貸住戸。賃貸住戸からは、庭にいる人の様子がうかがえず、庭の木々だけが見えるように視線をコントロールした

撮影:平井広行

基本データ

作品名
庭と共に時を刻む家「Garden on garden」
施主
T邸
所在地
東京都葛飾区
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
(新築戸建部分)289.58㎡
延床面積
(新築戸建部分)373.35㎡ (離れ部分)104.18㎡
予 算
1億円台