自然豊かな環境を、さらに魅力的に。
明るく開放感抜群の、丘に埋もれた山小屋

恵まれた自然環境を生かし、明るく開放的に暮らしたいとお考えだったお施主さま。建築家の上原さんは要望に応えるため、なんと建物を半分地中に埋めてしまった。完成した生活空間は地下。しかし、自然光で明るく、風が抜け、空も見えて気持ちがいい。さらに、家ができたことで自然の魅力も増したという。

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自然と調和した家にするため
建物を土中に埋め、小高い丘をつくる

山が好きで、自然あふれる場所に住みたいとお考えだったAさまは、山の中腹にある土地を購入。敷地の中には川が流れ、魚が棲む池もあるなど、周囲の環境だけでなく敷地自体が持つ魅力にも惹きつけられたのだそうだ。

依頼を受けた上原和建築研究所の上原和さんは、「自然が豊かな場所ですから、周囲の自然に馴染むような建ち方がふさわしいのではないかと考えました」と話す。その思いの表現がすごい。なんと家を半分ほど土の中に埋没させ、さらに掘削した残土を家の周囲に撫で付けてしまった。その姿は、小さな丘の中から家が顔を出しているよう。

丘のてっぺんに家の屋上があり、その屋上も緑化した。丘から屋上はなだらかに続き、丘から家を超えて反対側へ、といった移動も違和感なくできる。本当に、丘の中に家が埋まっているのだ。

また、丘や家の周囲など、敷地内には新たに100本の苗木を植えた。竣工から10年ほど経過して大きく樹木も育ったことから、現在では家は自然と同化しているといってもいいほどになっている。既存の池や川も、家が建ち、環境が整えられたことでより一層魅力が増した。

自然に埋没するように存在するこの「ヒュッテ閑馬」。外壁にはほとんど窓もなく、内部を伺うことはできない。地階に位置する生活空間はさぞかし暗く閉鎖的なのでは? と心配になるかもしれないが、それは室内に入ったとたん驚きと共に解消されるだろう。さんさんと日光がふりそそぎ明るいだけでなく、風も抜けて実に気持ちがいい空間が広がっているからだ。
  • 外観。敷地は山の中腹に位置し、川が流れ池もある魅力的な場所。建物を半分土に埋め、さらに掘削した土を家の周りに撫で付け丘をつくることで周囲の環境に家を溶け込ませた。また、敷地には新たに100本もの樹木を植えた。木々が成長した現在、家は一層周囲に馴染んでいる

    外観。敷地は山の中腹に位置し、川が流れ池もある魅力的な場所。建物を半分土に埋め、さらに掘削した土を家の周りに撫で付け丘をつくることで周囲の環境に家を溶け込ませた。また、敷地には新たに100本もの樹木を植えた。木々が成長した現在、家は一層周囲に馴染んでいる

  • 南東から家を見る。なだらかな丘に家が埋もれている。画像手前、既存の池はそのまま活用した

    南東から家を見る。なだらかな丘に家が埋もれている。画像手前、既存の池はそのまま活用した

地下とは信じられない開放感と明るさ。
市松模様に配置した中庭が家中に光を届ける

「家を新築するにあたり、Aさまのご要望はただ1つ『明るくて、開放的な家にしたい』ということだけでした」と上原さんは話す。要望を叶えるために取り入れたのは、中庭だった。

まず家の中はマス目を描くようにシステマチックに仕切り、そのうえで、中庭やトップライトを市松模様に設けた。これらは室内と接する面の多くがガラス、もしくはガラスの引き戸で囲われており、光あふれる生活空間を実現している。特に中心にある大きなテラスにできる日溜まりから入る光は優しく暖かく、ここが地下だと忘れてしまうほどだ。

さらに、視線を上げれば室内のどこにいても空が見えるおかげで開放的な気分が味わえる。窓を開ければ家中を風が抜け、木々の葉が揺れる音も聞こえてくるだろう。家と同じように、住まい手の居心地までも自然と一体化したように感じられるのだ。

快適さ、暮らしやすさはどうだろうか。生活空間は中心のテラスを囲うようにキッチンやダイニング、リビングなどが配置されている。それぞれは独立壁でシンプルに区切り、視線が抜ける中庭も含めて大きなワンルーム空間を実現。なお且つ秩序立てて構成した空間を引き立たせるため、鉄筋コンクリート造の構造や素材をシンプルに、あえてスケルトンのような状態で見せた。そのシンプルさによってそれぞれの居室の区切りがあいまいになるなど、使い方が限定されすぎない自由度が高い空間ができあがった。

回遊性があるのは生活空間だけではない。中庭の1つに、屋上と繋がる階段を設け、丘を下ったところにあるエントランスと合わせて、地階と屋上の回遊性も確保。屋上を活用する機会を広げた。

また、屋上に見える2つのキューブのようなものはそれぞれワークルームとゲストルーム。地階が開放的だからこそ、こじんまりしたスペースも必要と上原さんが提案した空間だ。地階から階段でアクセスするこれらの部屋はコンパクトな空間ながら、座ったときの目線の高さで一周ぐるりと開口した。屋上の緑や、もちろん空も眺めることができ、圧迫感は感じない。

要望を叶えながら暮らし方の可能性も広げ、状況や気分に応じてフィットする場も多くつくる。上原さんのプランニングによって、佇まいも住まい方も最上の家ができた。
  • 屋上。ところどころ光孔があり、秩序を持って中庭が計画されているのがわかる。画像右、建物の縁を活用してベンチを計画。屋上にも居場所ができ、活用の幅が広がった。キューブ上に突き出した箇所は1階ワークルーム。窓を細く1周開口し、浮遊感を出した

    屋上。ところどころ光孔があり、秩序を持って中庭が計画されているのがわかる。画像右、建物の縁を活用してベンチを計画。屋上にも居場所ができ、活用の幅が広がった。キューブ上に突き出した箇所は1階ワークルーム。窓を細く1周開口し、浮遊感を出した

  • 玄関ポーチから音楽ホールを見る。ポーチも中庭の1つであり、上部が開口しているため明るい。室内右、テラス3のガラス壁その他、多方向から光が入り、視線が空まで抜けるおかげで、地下という印象はほぼ受けない

    玄関ポーチから音楽ホールを見る。ポーチも中庭の1つであり、上部が開口しているため明るい。室内右、テラス3のガラス壁その他、多方向から光が入り、視線が空まで抜けるおかげで、地下という印象はほぼ受けない

  • 地下、音楽ホール。右にテラス3、左には家の中心に位置するテラス2がある。広々とした音楽ホールでは友人たちが集うこともあるという。奥はリビングとしているが、それは暫定的なもの。区切り方がゆるやかなため自在に用途を変えられる。階段はゲストルームへ続く

    地下、音楽ホール。右にテラス3、左には家の中心に位置するテラス2がある。広々とした音楽ホールでは友人たちが集うこともあるという。奥はリビングとしているが、それは暫定的なもの。区切り方がゆるやかなため自在に用途を変えられる。階段はゲストルームへ続く

日常と、別荘のような非日常が重なり合う。
月日とともに魅力が増す自然を楽しむ家

「ヒュッテ閑馬」がある場所は、のどかな環境ではあるが決して人里離れた所というわけではない。周囲は民家が点在し、家の裏は隣家の畑にも接している。そのような中でプライバシーを保ちつつ、日々の暮らしを通して心地よさや力強さなど自然が持つ様々な力を丸ごと享受できる家ができたと、Aさまは大変満足されているという。

上原さんは、飾り気がないシンプルな空間の中に、使い勝手にこだわり計画したキッチンや収納棚などポイントを押さえて設えを整えた。キッチンで料理を楽しみ、そのままフラットに繋がる中心の大きなテラスで食事をすることは、日々の大きな喜びのひとつになっているそうだ。

さらには、家を新築したことで人が集まりやすくなったとのこと。友人たちを招き屋上でバーベキューをしたり、地階の音楽ホールでピアノの演奏を楽しんだり。さまざまなシーンにフィットし、日常と、別荘で過ごすような特別感のある時間が重なり合う豊かさが感じられる。しかもそこには常に色濃い自然があるのだ。

上原さんが名付けたように、自然を感じながら暮らせることは「ヒュッテ」すなわち山小屋の醍醐味。上原さんは環境を整え、自然をさらに印象的なものにし、それを存分に受け取れるようにしたことで、「家」を「上質な暮らしを楽しむ山小屋」として完成させた。もともと敷地が持っていたポテンシャルを増幅させる上原さんのプランニングには、ただただ驚くばかりだ。
  • ダイニングから室内を見る。鉄筋コンクリート造の特徴を生かし、構造をスケルトンで見せるイメージで室内はシンプルに整えた。印象を邪魔しないよう、1階へつづく階段(画像左)も細いアイアンで計画

    ダイニングから室内を見る。鉄筋コンクリート造の特徴を生かし、構造をスケルトンで見せるイメージで室内はシンプルに整えた。印象を邪魔しないよう、1階へつづく階段(画像左)も細いアイアンで計画

  • 生活空間の中心にあるテラス2から室内を見る。中庭の存在によって窓の外に空間が広がる感覚を得られ、圧迫感がない。むしろ大きな開口から光、風、木々や水の音と自然の力が間近に感じられる

    生活空間の中心にあるテラス2から室内を見る。中庭の存在によって窓の外に空間が広がる感覚を得られ、圧迫感がない。むしろ大きな開口から光、風、木々や水の音と自然の力が間近に感じられる

  • ダイニングから室内を見る。地階は、家の中心にあるテラス2まで含めてワンルームのように空間が繋がる。市松模様に計画した中庭のおかげで、どこにいても空が見え、風も抜ける。明るくて開放的な家にしたいというAさまのご要望を見事に叶えた

    ダイニングから室内を見る。地階は、家の中心にあるテラス2まで含めてワンルームのように空間が繋がる。市松模様に計画した中庭のおかげで、どこにいても空が見え、風も抜ける。明るくて開放的な家にしたいというAさまのご要望を見事に叶えた

撮影:鳥村鋼一

間取り図

  • 配置図・1F平面図

  • B1F平面図

基本データ

作品名
ヒュッテ閑馬
所在地
栃木県佐野市
家族構成
夫婦
敷地面積
1161.50㎡
延床面積
102.93㎡
予 算
3000万円台