オーダーメイドで家族の色に染まってゆく
まっさらな麻のシャツのような住まい

「どんな家に住みたいか」は、「どんな服が好きか」と共通点がある。ハイブランドの服が好きな人もいれば、ファストファッションで流行のものを身に着ける人、機能・デザイン・価格のバランス、いわばコスパを重視する人がいるように、住宅に求めることも人それぞれ。市中山居の増木さんがつくる家をひとことで表すならば、「麻のシャツのような住まい」だ。

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世代を超え支持を集める住まいは
気品があり着心地の良い麻のシャツのよう

埼玉県東部、都心からわずか40㎞にありながら、豊かな自然環境が残るベッドタウン蓮田市。駅に程近い閑静な住宅街に「麻のシャツのような住まい」と名付けられた家がある。30代前半のご夫婦と幼いお子さんが住むY邸だ。この家をつくったのは、施主にじっくりと寄り添い丁寧な仕事で、上質な空間をつくりだす、市中山居の増木さん。

お祖父さまから受け継いだ土地に自邸を建てることを計画していたYさんご夫婦。依頼する設計士を見つけようと、住宅関連のサイトを見ていて目に留まったのが市中山居だったという。
その後、増木さんの自宅兼事務所を訪れたYさんは「木材と石、白い壁のバランスがとても素敵で惹きこまれました。何よりも増木さんの物腰がとても柔らかく、お話しやすい中にも細部へのこだわりがあり、ブレない芯のようなものを感じたのが決め手になった」と語る。

Yさんが感じた「ブレない芯のようなもの」とは、おそらく増木さんが大切にしている「仕事に対する姿勢」と「つくりだす家のテイスト」のことだろう。増木さんは、施主にじっくりと寄り添い、対話を重ねながら丁寧にプランを練っていくというスタイルをとる。1カ月以上もかけて新聞紙大の模型を自ら製作するなど、手間暇を惜しまないのだ。

「住宅」と「服装」には、共通点がある。ハイブランドのような高級なものもあれば、機能・デザイン・価格のバランスがとれた、コスパの良いものもある。さらにシンプルでスタイリッシュなもの、ほっこり感のあるものなどなど。その中で増木さんのつくる家を服装にたとえるならば「麻のシャツ」だ。

麻のシャツは、ブランドものの服のように「よそ行き」で、着続けると疲れてしまうこともなく、かといってTシャツやジャージのように、緩さを重視したあまり、野暮ったさのある「部屋着」でもない。気品や清廉さがありつつ、肌触りがよく着ていて心地よい「普段着」だ。

市中山居が当初想定していた顧客層は、40代50代のいわゆる大人世代だったという。夫婦2人で上質で丁寧な暮らしを紡ぐための家といったところだろうか。

しかしYさんご夫婦は30代前半で、小さなお子さんもいる。「Yさんのような若い子育て世代に選んでいただいたことが、とても嬉しかったことを覚えています」と増木さん。
「麻のシャツのような住まい」の心地よさは、世代を超えて支持を集めるのだ。
  • エントランスは目隠しを兼ねた植栽がお出迎え。ポーチを広く、大きなベンチを設け、ベビーカーや手荷物を置いても通りやすく、お子さんを抱えながら楽に出入りできる。

    エントランスは目隠しを兼ねた植栽がお出迎え。ポーチを広く、大きなベンチを設け、ベビーカーや手荷物を置いても通りやすく、お子さんを抱えながら楽に出入りできる。

  • 玄関引戸は、壁に対し30度振ることで開口幅が拡がり、大らかな玄関に。引戸と天井はピーラー(米松)で統一。床の大谷石の割付は引戸にも揃うよう、試行錯誤したという。

    玄関引戸は、壁に対し30度振ることで開口幅が拡がり、大らかな玄関に。引戸と天井はピーラー(米松)で統一。床の大谷石の割付は引戸にも揃うよう、試行錯誤したという。

  • 能舞台のような広々ウッドデッキ。床材はヒノキ。ベニシダレモミジ(写真左)はお祖父さまが大切に育ててきたものをそのままに、造園家小林賢二さんの手で再生された。

    能舞台のような広々ウッドデッキ。床材はヒノキ。ベニシダレモミジ(写真左)はお祖父さまが大切に育ててきたものをそのままに、造園家小林賢二さんの手で再生された。

  • 10畳もあるウッドデッキは、BBQや遊び場として、家族が大らかに暮らせる場。大きな庇は、夏の日差しを遮り、雨も凌ぐ。3階建ての隣家から見下ろす視線も気にせず寛げる。

    10畳もあるウッドデッキは、BBQや遊び場として、家族が大らかに暮らせる場。大きな庇は、夏の日差しを遮り、雨も凌ぐ。3階建ての隣家から見下ろす視線も気にせず寛げる。

本当に叶えたいことは何か?
最適解は、期待の斜め上いくアイデア

こうして始まったY邸の家づくり。約300㎡あるこの土地を見た、増木さんの第一印象は「十分な広さもあり、何でもできそう。お祖父さまが育てられた庭をどう生かそうか」というものだったという。

広さもあり形も整っている、制約の少ない土地は、実は建築家泣かせだったりする。狭小、変形地、傾斜地など、土地に何らか制約がある場合、その解決に頭を悩ませることになる一方、その選択肢の数はごく限られる。ある意味、大きな問題の解決方法さえ見つければ、ゴールは近い。一方、Y邸の土地のように制約がない土地には、無限の選択肢があるのだ。

また土地の制約がなく、無限の選択肢があるからといって、建築家が自由に設計できるというケースは少ない。施主それぞれに叶えたいことが違うし、「せっかく家を建てるのだから」とつい多くを求めてしまいがち。そして最大の関門である「予算」が立ちふさがるのだ。

Y邸においても同様、市中山居の和のテイストを取り入れつつ「北欧の椅子、大きな家具が置ける広いリビングとダイニング」「こだわりのキッチンやフローリング」「建材価格が高騰するさなかでも予算内には収めてほしい」といった要望があり「叶えたいこと」と「できること」にギャップがあったという。

しかし増木さんは、Yさんご夫婦の要望だけでなく、性格や仕事、家族、生活スタイルなどあらゆる角度からじっくりと寄り添い「本当に叶えたいことは何か」「優先順位の高いものは何か」を探り、一緒に整理していった。

そして、「家族がのびのびと、おおらかに暮らせること」を叶えたい最終目標に定め、何十通りものプランを考案。そうしてYさんご夫婦に提案されたプランは、奥様曰く「期待の斜め上をいくプラン」だった。

施主の言葉そのままを受け入れ、「できる」「できない」を判断するのが建築家の仕事ではない。真の建築家は、施主の言葉などを咀嚼し、施主が本当に叶えたいことを一緒に探り当て、それを実現するアイデアを出せる人。増木さんは、施主にじっくりと寄り添うからこそ「最適解」をみつけることができる。増木さんは、建築家に家づくりを依頼することの醍醐味を味わわせてくれる稀有な建築家の1人だ。
  • 船底天井とヒノキの丸柱がリビングに大らかさと安心感を与える。実家から引き継いだソファーに合わせ本棚を造作。引戸を開け放つと、ウッドデッキと庭が広がり開放感抜群。

    船底天井とヒノキの丸柱がリビングに大らかさと安心感を与える。実家から引き継いだソファーに合わせ本棚を造作。引戸を開け放つと、ウッドデッキと庭が広がり開放感抜群。

  • ダイニングには、もともとお持ちだった大きな一枚板のテーブルと北欧の椅子、ピアノを設置。L字型につながるリビング(写真左)とは趣の異なった庭の景色が楽しめる。

    ダイニングには、もともとお持ちだった大きな一枚板のテーブルと北欧の椅子、ピアノを設置。L字型につながるリビング(写真左)とは趣の異なった庭の景色が楽しめる。

  • リビング、ダイニング、ウッドデッキの境にある障子を閉めると、柔らかい光に包まれ、落ち着いた和のテイストになる。夫婦水入らずの時間、大人の空間を味わうという。

    リビング、ダイニング、ウッドデッキの境にある障子を閉めると、柔らかい光に包まれ、落ち着いた和のテイストになる。夫婦水入らずの時間、大人の空間を味わうという。

大きな庇の下の広々ウッドデッキ
家族が寛ぎ、遊び、集う大らかな暮らし

奥様が「期待の斜め上」と言ったY邸を見てみよう。
Y邸の魅力の1つが、庭に面した約10畳もある広々としたウッドデッキ。桂離宮をモチーフにしたというこのウッドデッキは、リビングとダイニングにL字型に面しており、幅2mもある木製建具を壁の中に引き込み全て開け放つと、シームレスに繋がる。リビング、ダイニング、2つの異なる居場所からウッドデッキ、さらにその先の庭が1つに繋がり「庭屋一如」を体現した。庭には、お祖父さまがこれまで大切に育ててきたベニシダレモミジをそのままに、造園家小林賢二さんの手によって再生された。

しかもこのウッドデッキには大きな庇がかかっている。この家を訪れたお母さまが、ベニシダレモミジを背景にしたウッドデッキを見て「まるで能舞台ですね」と言ったという。それほど、庭と一体化した美しさをもっている。

実はこの庇は美しさのためではなく、高い実用性に基づいている。夏の強い日差しはもとより、雨も凌いでくれる。また、3階建ての隣家からの視線を遮る役目も果たす。朝は、庭の樹々を見ながらコーヒーを一服、昼には、親戚や友人が集まりBBQ、夜には、鈴虫の音を聞きながらお月見と、第二のリビングとして重宝するほか、お子さんたちがトランポリンやハンモックで遊ぶ場としても活用できる。
増木さんは、このウッドデッキで「家族の大らかな暮らし」を実現してみせたのだ。

この大らかさは邸内でも見ることができる。23畳あるL字型のリビング・ダイニングは、船底天井(最高約2.8m)とすることで、高さ方向にも開放感が得られている。リビングの中央には、ヒノキの丸柱を大黒柱とし、その柱にもたれかかるように大型のソファーや造作の棚を配置。安心感と抜け感のある大らかな空間に仕上げてみせた。ソファーに腰掛けると、庭から差し込む木漏れ日、ウッドデッキの庇が落す影、このバランスが程よく落ち着く。増木さんは大きな模型を肉眼で覗き込みながら、このリビング・ダイニングの採光を設計したそうだ。

一方キッチンは、「臭いや音が伝わり、丸見えになるのが嫌」という奥様の要望に応え、あえて部屋に籠るような形をとった。とはいえ、家事をしながら、リビングで寛ぐ家族の様子や庭の景色も楽しめるように窓を設け、奥様の特等席を用意した。また、キッチンからパントリー、玄関、駐車場へと回遊できる動線とすることで、ストレスなく家事が行える工夫も凝らした。

この家の出来栄えに、Yさんも「じっくり向き合って作り上げた家だからこそ、至る所に愛おしさを感じて日々を過ごしている」「子供たちも『この家が大好き、全部の部屋が好き』と言ってくれ、そのことが何よりも嬉しい」とコメント。

「まだまだ新品でまっさらな麻のシャツですが、ゆっくりゆっくり、私たち家族の色に染めていけたらと思っている」と語るYさん。

増木さんのつくる麻のシャツは、既製品のシャツではない。施主一人ひとりに似合うように、丁寧に採寸し、ディテールにこだわってデザインされた究極の1点モノ。だからこそ、施主の体にピッタリとフィットし、着心地良く過ごせるのだ。

これからも増木さんは、そんな麻のシャツをつくり続けていく。
  • キッチンは奥様の要望を汲み入れ、臭いや音が伝わらないよう部屋に籠るような形とし、リビングとダイニングの中間に。窓(写真右)を設けることで繋がりをもたせた。

    キッチンは奥様の要望を汲み入れ、臭いや音が伝わらないよう部屋に籠るような形とし、リビングとダイニングの中間に。窓(写真右)を設けることで繋がりをもたせた。

  • 奥様こだわりのキッチンはオールステンレスのバイブレーション仕上。大型の食洗器と乾燥機も搭載。家事が楽しく、お手入れが楽な空間に。

    奥様こだわりのキッチンはオールステンレスのバイブレーション仕上。大型の食洗器と乾燥機も搭載。家事が楽しく、お手入れが楽な空間に。

  • キッチンの窓からは、リビング、ウッドデッキと庭が望める。家事をしながらでもお子さんたちの遊ぶ様子や緑を楽しめる、奥様の特等席。

    キッチンの窓からは、リビング、ウッドデッキと庭が望める。家事をしながらでもお子さんたちの遊ぶ様子や緑を楽しめる、奥様の特等席。

  • 洗面カウンターも造作して収納を充実させている。深いシンクは洗濯の下洗いもできる。浴室の窓先には、隣家の視線を遮る袖壁を設けた坪庭があり、気兼ねなく緑を楽しめる。

    洗面カウンターも造作して収納を充実させている。深いシンクは洗濯の下洗いもできる。浴室の窓先には、隣家の視線を遮る袖壁を設けた坪庭があり、気兼ねなく緑を楽しめる。

  • 2階には、寝室、収納や子供部屋が並ぶ。現在はお子さんの遊び場だが、成長したら間仕切れるよう、壁の下地が組み込まれている。

    2階には、寝室、収納や子供部屋が並ぶ。現在はお子さんの遊び場だが、成長したら間仕切れるよう、壁の下地が組み込まれている。

撮影:中村晃写真事務所(一部:市中山居)

Yさんの暮らしぶりを収めた動画は市中山居HPよりご覧いただけます

基本データ

作品名
麻のシャツのような住まい
施主
Y邸
所在地
埼玉県蓮田市
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
298.73㎡
延床面積
166.39㎡
予 算
4000万円台