天井高4mのスケール感あふれるLDK。
水平ラインの美しさが目を引くモダン邸宅

「天井が高く、屋外とつながる広いLDKが欲しい」という要望を、想像をはるかに上回る理想的な形でかなえた建築家の八田政佳さん。完成した住まいは邸内へ入るまでの動線も訪れる人を楽しませ、デザイン・住み心地ともに魅力満載の住宅となっている。

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水平ラインが際立つ横長のファサード。
邸内への動線にも心躍るサプライズ

東京・世田谷の閑静な住宅街に佇む「HOUSE T」。高級感のある住宅が並ぶエリアだが、建築家の八田政佳さんが設計したこの家は群を抜いた存在感がある。水平ラインが際立つ横長のファサードがとにかくかっこよく、洗練された近代モダニズム建築を思わせるからだ。

この、人目を引くデザインの起点となったのは敷地条件だった。北東角地で東側の辺が長く、東を正面にすれば横長のファサードを計画できる。間口が狭く奥行きがある縦長の敷地が多い東京都内で、この条件はかなり貴重だ。

そこで八田さんは、横長の水平ラインを強調したシンプルモダンなファサードをデザイン。完成した「HOUSE T」は天然石をあしらった塀や壁で閉ざされ、圧倒的な高級感をまとっている。だが、屋根の軒はゆったり深く、軒裏のチーク材も木の温かみを醸し、訪れる人を迎え入れるような懐の深さも感じさせる。この佇まいはYouTube『八田政佳建築設計事務所』チャンネルの動画を見るとよくわかるので、ぜひご覧いただきたい。

そしてこの家、外観もさることながら邸内への動線も、心躍るようなワクワク感にあふれている。

横長のファサードの右端に位置する門扉から中へ入ると、そこは玄関へ続く長いアプローチ。道路からは見えない造りで、外光が入るスペースや間接照明はあるが少し薄暗くて幅も狭い。

このアプローチを進んで邸内に入ると、誰もが「!!!」と驚いてしまう。何に驚くかというと、アプローチの印象を鮮やかに覆す広さと明るさだ。土間とエントランスホールは合わせて約13畳という大きさで、大窓のある白い空間にはまばゆい陽光。美しくデザインされたスタイリッシュな階段の向こうには坪庭の緑も見え、視線が外に抜けてとてものびやか。家の中へ入ったはずなのに、まるで外へ出たような開放感なのだ。

「アプローチや玄関まわりは、訪れたゲストが最初にそのお宅を体験する『建物の顔』ともいえる空間です。第一印象を大きく左右しますから、どのお宅の設計でも、邸内に入るまでのストーリー性を大切にしています」と八田さん。

その言葉通り、この家のアプローチとエントランスホールの対比が生み出すストーリーはインパクト十分。訪れる誰もが、八田さんが仕掛けた建築の演出で、素敵な空間体験ができるだろう。
  • 東の前面道路はゆるやかな坂道。門扉のほう(写真奥)に向かって歩いていくと、深い軒や箱を重ねたような造形美が目に入り、しばらく眺めていたくなってしまう

    東の前面道路はゆるやかな坂道。門扉のほう(写真奥)に向かって歩いていくと、深い軒や箱を重ねたような造形美が目に入り、しばらく眺めていたくなってしまう

  • 北側の外観。天然石の外壁と木製のガレージドア、ベストな場所に配された緑のバランスが絶妙で、こちらも魅力的な表情

    北側の外観。天然石の外壁と木製のガレージドア、ベストな場所に配された緑のバランスが絶妙で、こちらも魅力的な表情

  • 天然石や間接照明に彩られた玄関へのアプローチ。屋根もあり、雨を気にせず自転車などを置ける

    天然石や間接照明に彩られた玄関へのアプローチ。屋根もあり、雨を気にせず自転車などを置ける

豊富な知識を生かして成し得た
外と大きくつながる天井高のLDK

「HOUSE T」の施主さまは、ご夫妻と小さなお子さま、愛犬の3人+1匹家族。自邸建築にあたってはハウスメーカーと八田さんのプランでコンペが行われたという。その結果、施主さまが八田さんを選んだ大きな理由は、要望だった「広くて天井の高いLDK」を見事にかなえたことだった。

八田さんは施主さまの「高台の敷地から見える眺望を生かしたい」との要望も踏まえ、まずはLDKを眺めの良い2階に配することを決定。その上で天井の高さを出すため、建物の高さを制限する法規の知識を総動員。一般的なルールとは異なる難度の高いレギュレーションを採用し、2階だけで4mもある高い天井を提案した(吹抜けではない1層で、この天井高はすごい)。

建築関連の法規は厄介で、「原則NGだけど、こうすればOK」といったややこしい条件付きも多い。だから、知識がある設計者のほうがプランの幅が広がるし、発想が柔軟なほうが本来ダメそうなことができたりする。そういう意味で、八田さんはとても頼りになる建築家であることがわかるエピソードだ。

かくして「HOUSE T」のLDKは、天井高4m、広さ約43畳のスケール感あふれる開放空間に仕上がった。シームレスにつながる約15畳もの屋外リビングもあり、外の光や風、空を感じる心地よさも100点満点。

家を支える構造壁はイタリア製の大判タイルを張り、柱や梁は黒く塗装して窓サッシと同化させるなど、「構造に必要なもの」をデザインに昇華している点も見逃せない。おかげで違和感のある壁や柱が1つもなく、視覚的にも満足度の高いホテルライクな空間となっている。
  • 約13畳もの広さを誇る土間とエントランスホールは、大きなガラス窓から日差しがそそぐ明るい空間。細くて薄暗いアプローチの先で、この空間に出合うサプライズ感は特筆もの。邸内への期待がいっそう高まる

    約13畳もの広さを誇る土間とエントランスホールは、大きなガラス窓から日差しがそそぐ明るい空間。細くて薄暗いアプローチの先で、この空間に出合うサプライズ感は特筆もの。邸内への期待がいっそう高まる

  • エントランスホールの階段は、玄関側(写真手前)、寝室側(写真左)どちらからものぼりやすいよう、最初の数段をピラミッド状に設計。その上の稲妻階段は、窓越しの緑を楽しむために薄く、軽やかにデザインしている

    エントランスホールの階段は、玄関側(写真手前)、寝室側(写真左)どちらからものぼりやすいよう、最初の数段をピラミッド状に設計。その上の稲妻階段は、窓越しの緑を楽しむために薄く、軽やかにデザインしている

  • LDKのリビングスペースは、広い屋外リビングと一体化する開放空間。建物を支えるために必要な柱や梁は黒い窓サッシと同化させ、壁はイタリア製の大判タイルでデコレーション。窓越しの景色を損なわない、洗練された内装だ

    LDKのリビングスペースは、広い屋外リビングと一体化する開放空間。建物を支えるために必要な柱や梁は黒い窓サッシと同化させ、壁はイタリア製の大判タイルでデコレーション。窓越しの景色を損なわない、洗練された内装だ

クールなデザインの中に込められた
住まい手と暮らしへの温かな思い

八田さんの設計は、高級感漂うクールな作風とは裏腹に、温かな思いが込められていることも大きな魅力だと思う。一見するとスキのない洗練されたデザインなのだが、そこには住まい手と、住まい手の暮らしへの「愛」が感じられるのだ。

例えば1階のエントランスホール。ホテルのロビーのような空間だが、ここは「愛犬の遊び場が欲しい」「子どもの髪を切るスペースが欲しい」という要望へのアンサーでもある。だから、髪を切るときに欲しい大きな鏡も設置しているのだが、さらに八田さんは階段の下段の一部を窓沿いに長く伸ばし、ベンチとして使えるように設計。その理由は、「ワンちゃんやお子さまがここで遊んでいるときに、奥さまが窓際に座り、お茶でも飲みながら見守れたらいいなと思ったからです」とのこと。

似たような例はまだある。八田さんは1階にあるご主人の寝室と、奥さまとお子さまの寝室をL字に並べ、2室のどちらからも出られる小さなバルコニーを設置。その先には、やはりどちらの部屋からも見られる菜園スペースを配している。

「菜園スペースは、お子さまが野菜づくりを体験できるようにという奥さまの要望に応えたものです。でもご主人は多忙と伺ったので、夜遅くに帰宅しても菜園の変化を見てお子さまの成長を感じていただけたらいいなと思い、この配置にしました」と八田さん。

建築はある意味で、設計者の心遣いの結晶だと思う。「日当たりが良くて暑すぎないように、軒は深く」「空が見えると開放感が増すから、LDKにはハイサイドライトを」など、この家の設計で八田さんが行っていることも、全て住まい手への心遣いだ。

こういう心遣いには設計者自身の暮らしを楽しむ力や、住まい手の暮らしをイメージする力が求められる。その点、八田さんは想像力が豊かでセンスがいいし、根底にはいつも、「住まう人が幸せであって欲しい」という温かな思いがある。そんな人と一緒に建てる住宅が、楽しい時間をたくさん紡ぎ出してくれることは想像に難くない。八田さんがつくる家は、ただ、かっこいいだけではないのだ。
  • LDKとシームレスにつながる屋外リビングは約15畳。写真奥の小さなバルコニーと合わせると20畳以上という広さだ。隣家のある南側(写真右)は壁を設け、プライバシーを確保

    LDKとシームレスにつながる屋外リビングは約15畳。写真奥の小さなバルコニーと合わせると20畳以上という広さだ。隣家のある南側(写真右)は壁を設け、プライバシーを確保

  • LDKのリビングスペース。チーク材の天井はそのまま深い軒となって屋外に伸び、室内が外まで伸びているようなのびやかさを演出。正面のテレビ台は八田さんの設計で造作したもの。外壁の一部と同じ天然石を使い、ここでも内と外のつながりを表現

    LDKのリビングスペース。チーク材の天井はそのまま深い軒となって屋外に伸び、室内が外まで伸びているようなのびやかさを演出。正面のテレビ台は八田さんの設計で造作したもの。外壁の一部と同じ天然石を使い、ここでも内と外のつながりを表現

  • ダイニング~キッチン。写真中央奥、白い引き戸が開いているところはキッズスペース。奥さまがキッチンにいるとき、お子さまを見守りやすい配置になっている。その上にはロフトもある

    ダイニング~キッチン。写真中央奥、白い引き戸が開いているところはキッズスペース。奥さまがキッチンにいるとき、お子さまを見守りやすい配置になっている。その上にはロフトもある

基本データ

作品名
HOUSE T
施主
I邸
所在地
東京都
家族構成
夫婦+子ども1人+犬
敷地面積
215.72㎡
延床面積
249.11㎡