昔ながらの沖縄の暮らしを現代に取り入れた
3枚の屋根と魅力的なテラスがある家

自邸の新築にあたり、海外からの留学生を受け入れるゲストハウスを併設したいと考えていたお施主さま。依頼を受けた建築家の仲本さんは、南側に開けている立地を生かし、沖縄の古民家のような構成を提案した。完成したのは沖縄らしさが堪能でき、なおかつ現代のライフスタイルに合った家だ。

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立地条件から、沖縄の古民家にならった
「雨端」がある家を提案

沖縄県にお住まいのAさま。すでに独立されている3人のお子さまたちはそれぞれに海外留学を経験し、ホストファミリーに親切にしてもらった思い出を今でも大事にされているという。そこで自分たちの住まいと、留学生を受け入れるための無償で長期滞在できるゲストハウスが一緒になった建物を新築したいと希望されていた。

購入したのは、新たに区画整理された地域の土地の隣り合う2区画だ。西面以外の三方が接道し、東西に横長い。依頼を受けた株式会社ADeRの仲本昌司さんは、まず東側に母屋を、西側をゲストハウスにすることを提案。かつ、土地は南側に開けており景色も良いことから、沖縄の古民家的な構成の家にしようと考えた。

沖縄の古民家の特徴は、まず台風が多いためRC造がほとんどだということ。また、伝統的に南にリビングなどの人が集まる場所を、キッチンや寝室、和室などプライベートな居室は北側に配置するという。

この家もそれにならって構造はRC造とし、母屋もゲストハウスもリビングダイニングを南側に配置、キッチンは北側とした。また、母屋の主寝室は北側に、逆に来客用のベッドルームやゲストルームの個室など、景色も楽しみのひとつになる居室は南側に設けた。

昔ながらの沖縄の家に欠かせない空間に、雨端(あまはじ)がある。一般的には家の南面の屋根から続く突き出した軒と、その下のエリアのことをいい、縁側にも似ている。かつての沖縄の暮らしぶりは建具を開け放って過ごすことが多く、雨端で直射日光を遮り、リビングと一体化して半屋外的な使い方をしていたという。

この家に雨端を設けるにあたり、仲本さんは今と昔の生活スタイルの変化を考慮。エアコンの使用が常になり、建具を閉めることが一般的になった現代の暮らしでもリビングと雨端が一続きの空間として感じられるよう、4m幅のテラスとして実現した。軒も合わせて深々と出し、雨端テラスには直射日光が入ってこない。

リビングからテラスを通しての眺めもすごい。RC造の利点を生かし、1本の柱も建てることなく軒を出すことに成功。おかげで遮るものなく庭へ、そして向こうの景観へと大胆に視界が開けていく。

「沖縄の日陰の空間は、風が通るととても心地いいんですよ」と仲本さん。あずまやのように屋根で覆われた空間は広さがあることで使い方の可能性も拡がり、豊かな生活をもたらす居場所のひとつとなった。

  • 南側の庭から家を見る。手前が母屋、奥にゲストハウス。建物の端に母屋の玄関がある。ゲストハウスの玄関は建物を対角線で結んだ真逆に位置する。ゲストハウスからも自由に庭へ出られるようになっており、将来は庭を介して母屋で暮らすAさまと交流することもあるだろう

    南側の庭から家を見る。手前が母屋、奥にゲストハウス。建物の端に母屋の玄関がある。ゲストハウスの玄関は建物を対角線で結んだ真逆に位置する。ゲストハウスからも自由に庭へ出られるようになっており、将来は庭を介して母屋で暮らすAさまと交流することもあるだろう

  • 南側の庭から家を見る。手前が母屋、奥にゲストハウス。建物の端に母屋の玄関がある。ゲストハウスの玄関は建物を対角線で結んだ真逆に位置する。ゲストハウスからも自由に庭へ出られるようになっており、将来は庭を介して母屋で暮らすAさまと交流することもあるだろう

    南側の庭から家を見る。手前が母屋、奥にゲストハウス。建物の端に母屋の玄関がある。ゲストハウスの玄関は建物を対角線で結んだ真逆に位置する。ゲストハウスからも自由に庭へ出られるようになっており、将来は庭を介して母屋で暮らすAさまと交流することもあるだろう

  • 母屋のLDK。画像右側が北にあたる。至るところにハイサイドライトを設けたうえ、LDK空間と来客用の寝室の間に吹き抜けをつくり、視線が抜け、外部が感じられる開放的な空間に仕上げた

    母屋のLDK。画像右側が北にあたる。至るところにハイサイドライトを設けたうえ、LDK空間と来客用の寝室の間に吹き抜けをつくり、視線が抜け、外部が感じられる開放的な空間に仕上げた

  • ゲストハウスは母屋よりラフな雰囲気。玄関(画像奥)を広くし、ダイレクトにリビングダイニングへ入る構成

    ゲストハウスは母屋よりラフな雰囲気。玄関(画像奥)を広くし、ダイレクトにリビングダイニングへ入る構成

室内に直射日光は入れず、光だけを届ける。
可能にしたのは3枚の屋根

沖縄といえば暑い夏が思い浮かぶ。雨端を取り入れるなど沖縄の風土に合わせた建築を提案したのは、古民家には先人の知恵が詰まっているからだ。とにかく直射日光を家に入れない、室内の壁に当てないことが重要なのだという。

しかし一方で、現代の暮らしとのバランスも必要になる。雨端テラスの深い軒で日光が一切入らないようにしているからこそ、そのままでは家の中が暗くなってしまうのだ。「直射日光は入れずに、北側からやわらかな光のみを室内に入れることが必要でした」と仲本さんは語る。

解決策は、3枚の屋根だ。この家が「Three roofs house」と名付けられたゆえんでもある。

北から南に向かって高さの違う屋根を3枚重ね、高低差によってできた部分をハイサイドライトとして活用した。1枚の大きなハイサイドだと日光が入りすぎるうえ、室内のある場所しか照らさない可能性がある。しかし、間に屋根を挟めば窓が細長くなり、さらに下の屋根にも遮られ光の量が調節される。同時に、光の入る高さや角度が異なるため、室内全体に光を届けられるようになった。

メリットはそれだけではない。室内は重なった屋根の高さを反映した天井になっており、したがって北に行くほど天井高が低い。例えば母屋では、先述の通り北側には寝室や和室などプライベート空間が集められているが、天井高を抑えたことでそれにふさわしい落ち着きが得られる。

中でも一番低い天井の下に設けられた和室は、とりわけ落ち着いた雰囲気がある。植栽が施された庭やエントランス脇に設けられた水盤による水音なども楽しむことができ、心安らかな時間を過ごせる。

対して南に位置するリビングダイニングは開放的に過ごすことができるという。重なる屋根から生まれた空間だけでなく、庭に面した南側にも設けられたハイサイドライトを通して視線が外へ伸び、一層の広がりが感じられる。

さらには屋根の重なりを生かす意味もあり、室内を仕切る壁と天井の間の空間も空けた。そうすることで母屋全体が一番高い屋根の下に収まり、家のどこからでも奥行きある極上の居心地を享受できる家が実現した。
  • 外観。画像奥が北側。3枚の屋根が重なり合っているのがわかる。一番高い屋根は南側に向かって下り、雨端テラスを覆う深い軒となっている

    外観。画像奥が北側。3枚の屋根が重なり合っているのがわかる。一番高い屋根は南側に向かって下り、雨端テラスを覆う深い軒となっている

  • 母屋LDK、画像右奥は和室。天井の高さと居室の用途を合致させ、南に開放感あふれるリビングダイニングを配置、北には落ち着きが欲しい和室やキッチンなどを設けた。段階的に天井が上がり、壁面と天井の間にも空間があることで奥行きが感じられ、家がシームレスに繋がった

    母屋LDK、画像右奥は和室。天井の高さと居室の用途を合致させ、南に開放感あふれるリビングダイニングを配置、北には落ち着きが欲しい和室やキッチンなどを設けた。段階的に天井が上がり、壁面と天井の間にも空間があることで奥行きが感じられ、家がシームレスに繋がった

  • 母屋、北側に設けられた和室。北側には公道が走るため外構を高くし、できたスペースを生かして坪庭のような「静的な庭」を計画。琉球畳やクチャの土壁に加え、庭にも琉球石灰岩の石が置かれ、より沖縄らしさを堪能できる一角だ。画像右奥の水盤から聞こえてくる水音も心地よい

    母屋、北側に設けられた和室。北側には公道が走るため外構を高くし、できたスペースを生かして坪庭のような「静的な庭」を計画。琉球畳やクチャの土壁に加え、庭にも琉球石灰岩の石が置かれ、より沖縄らしさを堪能できる一角だ。画像右奥の水盤から聞こえてくる水音も心地よい

  • 重なり合う3枚の屋根。天井となる面は板を貼る方向を変え、縦にも横にも視線や意識が広がるようにした

    重なり合う3枚の屋根。天井となる面は板を貼る方向を変え、縦にも横にも視線や意識が広がるようにした

アクティブに滞在できるよう整えた
留学生のためのゲストハウス

ゲストハウス側を見てみよう。完全に独立したつくりにしたいとのご要望から、玄関は別、母屋とを繋ぐドアは母屋側から鍵が掛けられるように計画した。

リビングダイニングのほか、キッチンや水回りなど長期滞在するために十分な設備を整えている。個室は2つ。広々とした南側の庭に面しており、充実した日々を送れそうだ。

「海外からの留学生が暮らす場所ですから、ラフに使えるようにイメージしてプランを立てました」と仲本さん。あえて靴箱などは設けず、さらに一般的なものよりも大きくスペースを取った玄関から、すぐにリビングダイニングがつながる。これは、アクティブに過ごす人が多いだろうと想像した結果としてだという。自転車を玄関に置くこともでき、大きな荷物を抱えて帰ってきても玄関でまごつくことはない。

3枚の屋根を持つ沖縄の風土に適した家は、構造だけでなく選ぶ素材にもこだわりがある。庭やエントランスの植栽は造園家と協力し沖縄に自生する植物を選んだほか、和室の壁はクチャという沖縄の土を使った左官仕上げとし、畳は琉球畳を採用した。また、床や天井などは高温多湿の環境に耐えうるウォールナットやサーモウッドで仕上げている。

昔ながらの知恵を取り入れながら、空間の使い方や居室の明るさなど、現代のライフスタイルに合わせてつくり上げた「Three roofs house」。快適に、沖縄の空のように晴れ晴れと暮らせるに違いない。現在はコロナ禍で未だ留学生の受け入れが叶っていないそうだが、実現すれば程よい距離感でお互いに楽しく生活できるだろう。その日が来るのが楽しみだ。
  • 母屋、エントランス。屋根に覆われた日陰に入り、水盤(画像奥右)が見えてくると、ほっと落ち着く

    母屋、エントランス。屋根に覆われた日陰に入り、水盤(画像奥右)が見えてくると、ほっと落ち着く

  • ゲストハウス、リビングダイニング。扉は母屋と繋がるが、母屋側で鍵がかけられる。画像右の窓から南側の庭に出入りできる

    ゲストハウス、リビングダイニング。扉は母屋と繋がるが、母屋側で鍵がかけられる。画像右の窓から南側の庭に出入りできる

撮影:Jonathan Liu

基本データ

作品名
Three roofs house
施主
A邸
所在地
沖縄県中頭郡
家族構成
夫婦
間取り
母家:2LDK+和室  ゲストルーム:2LDK
敷地面積
753.04㎡
延床面積
285.93㎡