夫婦2人暮らしにうれしい工夫が満載。
豊かな居心地を楽しめる田園の平屋

ご実家を建て替え、当面はセカンドハウス、いずれは終の住処にしたいと考えていた施主さま夫妻。依頼を受けた建築家の谷山武志さん・裕子さんがつくり上げたのは、心地よい光や緑に包まれながら、いくつになっても安心・快適に暮らせる家だった。

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勾配屋根と深い軒がポイント。
田園風景に馴染む穏やかな佇まいの平屋

福島県郡山市にある『逢瀬町の平屋』は、仙台市に住む施主さま夫妻がご主人のご実家を建て替えたものだ。施主さま夫妻には2人のお子さまがいるが遠方で暮らしており、築80年を経た郡山のご実家は、数年前から空き家になっていたという。

建て替えの主目的は、永く住める家を新たにつくって次世代に引き継ぐこと。建て替えが済んだら当面はセカンドハウスとして使用し、ゆくゆくは終の住処にしたいと考え、『谷山建築設計室』の谷山武志さん・裕子さん夫妻に設計を依頼した。

場所は小学校や神社、昔ながらの商店などがある100世帯ほどの集落の中心部で、周囲には田畑も広がる。施主さまは「この田園風景に溶け込む住まいにしたい」との要望をもっており、まず、建物は木造の平屋にすることが決まった。

完成した『逢瀬町の平屋』は東西に長く、庭に面した南から見るとかなりの横幅がある住宅だ。また耐久性やメンテナンスの利便性を高めたいという要望に沿って、屋根や外壁には黒いガルバリウム鋼板を使っている。

建物のボリュームがあり、かつ、エッジが効いたデザインになりやすいガルバリウム鋼板で仕上げた家は、ともすれば田園風景で浮いた存在になりかねない。しかし谷山さん夫妻はそんなハードルをものともせず、設計の工夫で見事にランドスケープに馴染ませている。

ポイントは、屋根を北から南にかけて下がる勾配屋根とし、南の軒も大きく深くデザインしたことだ。おかげで、この家の顔となる南側は高さが抑えられ、ゆったりとした軒の効果もあって奥ゆかしい印象に。山間に佇む高級旅館のようなファサードは控えめなのに人目を引き、帰ってくるたびに幸せな気持ちになれる穏やかな佇まいに仕上がった。
  • 南の外観。『逢瀬町の平屋』は、260坪以上の広い敷地の南に庭がある理想的なレイアウト。建物のボリュームがあり、外壁は硬質な印象を与えるガルバリウム鋼板だが、高さを抑えた南面、ゆったりとした深い軒が奥ゆかしい品のよさを演出。田園風景に溶け込む佇まいとなっている

    南の外観。『逢瀬町の平屋』は、260坪以上の広い敷地の南に庭がある理想的なレイアウト。建物のボリュームがあり、外壁は硬質な印象を与えるガルバリウム鋼板だが、高さを抑えた南面、ゆったりとした深い軒が奥ゆかしい品のよさを演出。田園風景に溶け込む佇まいとなっている

  • 西の外観。庇が付いた部分は薪ストーブの薪などを備蓄できる外納戸。写真左の黒いドアはキッチンのパントリーに直接行ける勝手口で、買い物帰りに荷物を運び込みやすい。車いすが必要になった場合は、駐車場から勝手口へのスロープを設置することもできる

    西の外観。庇が付いた部分は薪ストーブの薪などを備蓄できる外納戸。写真左の黒いドアはキッチンのパントリーに直接行ける勝手口で、買い物帰りに荷物を運び込みやすい。車いすが必要になった場合は、駐車場から勝手口へのスロープを設置することもできる

  • 東西に長い平屋なのでほとんどの住空間が南の庭に面し、明るい陽光と豊かな緑を楽しみながら生活できる。写真右側、玄関の木製建具はオーダーでつくったもの。玄関ポーチの床は重厚感漂う玄昌石

    東西に長い平屋なのでほとんどの住空間が南の庭に面し、明るい陽光と豊かな緑を楽しみながら生活できる。写真右側、玄関の木製建具はオーダーでつくったもの。玄関ポーチの床は重厚感漂う玄昌石

メインの生活空間をワンルームに。
老後を快適に暮らすための配慮が満載

では、邸内をご紹介していこう。

プランニングで谷山さん夫妻が最も大切にしたのは、60代のご夫妻が、永く、快適に住めること。

間取りは、東西に伸びた横長の建物の真ん中がLDK。その東側は玄関ホールと客間用の和室、西側には主寝室や水まわり、外納戸がある。

「お子さま一家も遊びにいらっしゃいますが基本はお2人暮らしですから、生活空間がコンパクトにまとまったワンルーム的な造りが便利だろうと考えました」と谷山さん夫妻。

その言葉通り、メインの生活空間がLDKのまわりに集中した間取りは無駄な動線がない上、ご夫妻が思い思いに過ごしていても互いの様子が視界に入ってコミュニケーションが取りやすい。2人暮らしにぴったりの、快適で合理的なプランといえる。

加えて、この間取りは打ち合わせの際に施主さまがおっしゃった「以前の家は寒かった」という言葉に対するアンサーでもあったという。

谷山さん夫妻は冬の寒さが厳しい郡山でも暖かく過ごせるよう、屋根や壁にグラスウールの断熱材をたっぷりと充填した。だがそれだけでなく、生活空間を客間用の和室と外納戸の間に置く──つまり、別の空間でサンドイッチ状に挟んで囲むことで、生活空間の断熱性をいちだんと高めたのである。

いずれは終の住処になることを踏まえ、高齢になっても安心して暮らせる工夫もふんだんに盛り込んだ。

床は段差のないバリアフリーで、廊下や間口は車いすでも十分通れる横幅を確保。建具にドアは使わず全て引き戸にするなど、足腰が弱った場合も問題なく暮らせるように配慮した。さらには、キッチン奥のパントリーにはすぐに駐車場に出られる勝手口を設け、必要に応じて車から邸内への車いす用スロープを設置できるスペースも取っている。

将来のどんな変化も受け入れる包容力を備え、快適な生活を送るための心遣いにあふれた『逢瀬町の平屋』は、終の住処を見据えた家づくりの理想形ではないだろうか。住まう人の暮らしを思い、丁寧にプランニングしていく谷山さん夫妻の設計の魅力が存分に発揮された住宅といえるだろう。
  • LDK。テレビ台の奥は書斎コーナー。その先の白い引き戸の奥が主寝室。写真右側に進むとダイニングやキッチンがある。大きなワンルームの中に生活空間がまとまり、ご夫妻2人で暮らしやすい間取り。主寝室の向かい(薪ストーブの裏)には大容量のウォークインクローゼットもある

    LDK。テレビ台の奥は書斎コーナー。その先の白い引き戸の奥が主寝室。写真右側に進むとダイニングやキッチンがある。大きなワンルームの中に生活空間がまとまり、ご夫妻2人で暮らしやすい間取り。主寝室の向かい(薪ストーブの裏)には大容量のウォークインクローゼットもある

  • リビングはウッドデッキを介して庭とのつながりを感じられる開放空間。窓はオーダーの木製建具で、緑豊かな景色を引き立てる額縁のような役割を果たす。写真左の壁一面には先代から受け継いだ古書が並ぶ棚があり、空間にアカデミックな魅力を添えている

    リビングはウッドデッキを介して庭とのつながりを感じられる開放空間。窓はオーダーの木製建具で、緑豊かな景色を引き立てる額縁のような役割を果たす。写真左の壁一面には先代から受け継いだ古書が並ぶ棚があり、空間にアカデミックな魅力を添えている

  • リビング(写真手前)、書斎コーナー(写真左)、ダイニング(写真右奥)が大きな1室空間に収められた使いやすい間取り。写真中央奥の白壁の中がキッチン。薪ストーブ側に南向きの小窓があり、小窓の戸を開ければLDKや庭の様子が目に入る

    リビング(写真手前)、書斎コーナー(写真左)、ダイニング(写真右奥)が大きな1室空間に収められた使いやすい間取り。写真中央奥の白壁の中がキッチン。薪ストーブ側に南向きの小窓があり、小窓の戸を開ければLDKや庭の様子が目に入る

  • LDKは北に向かって高くなる勾配天井。上部のハイサイドライトが北の穏やかな光を広範囲に届ける。写真左、ご主人たっての希望で設置した薪ストーブは、オーダーであつらえた素敵なデザイン。暖かな炎が冬のくつろぎ時間を格別なものにしてくれる

    LDKは北に向かって高くなる勾配天井。上部のハイサイドライトが北の穏やかな光を広範囲に届ける。写真左、ご主人たっての希望で設置した薪ストーブは、オーダーであつらえた素敵なデザイン。暖かな炎が冬のくつろぎ時間を格別なものにしてくれる

居心地や見える景色に変化をつけた、
心豊かに暮らせる住空間

谷山さん夫妻が手がける住宅は断熱、耐震などの性能を高いレベルで実現しているが、毎日を心豊かに暮らせる空間デザインも、2人が常に大切にしていることの1つだ。

『逢瀬町の平屋』で「心豊かに暮らせる空間デザイン」を実感するのは、やはり、生活のメインスペースとなるLDKだろう。

LDKはウッドデッキと庭に面した南側がリビング、北側がダイニング。西側には造作のテレビ台で仕切った書斎コーナーがあり、その傍らには薪ストーブも。大きなワンルーム空間でありながらそれとなくゾーニングされ、さまざまな居場所がある。

加えて注目したいのは、居場所ごとの居心地が全く異なる点だ。

リビングは、南の庭との一体感が高い開放空間。南の大開口は木製サッシを使っているから、豊かな緑が額縁の中の絵画のように映えて美しい。そして北に視線を移せば、北に向かって高くなる天井上部のハイサイドライトから爽やかな空が見え、上への開放感もあって気持ちがいい。

一方、北に配したダイニングは庭と少し離れているが、腰高の窓一面に北側の竹林が広がり、清々しい緑に包まれて食事ができる。

西側の書斎コーナーは、ちょっとこもり感があって読書に最適。オーダーであつらえた薪ストーブ周辺も豊かなくつろぎスペースで、冬はゆらめく炎を眺めて過ごす極上のひとときを楽しめる。

ワンルーム空間でも単調にならないのは、谷山さん夫妻が開放感・こもり感といった体感にバリエーションをもたせ、適切な窓計画で見える景色にも変化をつけたからにほかならない。しかも視線の抜けや天井高などの空間ボリュームもうまく利用しており、生活空間をコンパクトにまとめているのに「コンパクトに感じない」。

施主さま夫妻は、居心地満点の住まいに生まれ変わった『逢瀬町の平屋』に足繁く通うようになり、遠方のお子さま一家も遊びに来るのを楽しみにしているそう。いずれ本格的に暮らし始める日が来たときも、この家は豊かで穏やかな日々をもたらしてくれるに違いない。
  • ダイニングは北側に位置するが、腰高の窓一面に竹林の緑が広がり、和の風情あふれる清々しい眺めを楽しみながら食事ができる

    ダイニングは北側に位置するが、腰高の窓一面に竹林の緑が広がり、和の風情あふれる清々しい眺めを楽しみながら食事ができる

  • LDKの書斎コーナーからの眺め。ワンルーム空間にダイニング、リビング、書斎など多彩な居場所があり、暮らしていて飽きない。それぞれの居場所がそれとなくゾーニングされており、独立感と一体感のバランスが絶妙

    LDKの書斎コーナーからの眺め。ワンルーム空間にダイニング、リビング、書斎など多彩な居場所があり、暮らしていて飽きない。それぞれの居場所がそれとなくゾーニングされており、独立感と一体感のバランスが絶妙

  • 北側の和室。『逢瀬町の平屋』は北に向かって天井が高くなるためこの和室も天井が高く、ハイサイドライトやコーナー窓から外の景色や光も感じられ、心地よい開放感がある。左の上部には玄関ホール側からのぼるロフト収納があり、普段使わないものをしまってすっきりと生活できる

    北側の和室。『逢瀬町の平屋』は北に向かって天井が高くなるためこの和室も天井が高く、ハイサイドライトやコーナー窓から外の景色や光も感じられ、心地よい開放感がある。左の上部には玄関ホール側からのぼるロフト収納があり、普段使わないものをしまってすっきりと生活できる

  • 北の和室から南の和室を見る。2室の和室はひと続きで、北の和室も南の庭とのつながりを感じられる。天井は、すだれのようなサツマヨシを張ったベニヤ。和の趣が増し、ホッと落ち着ける空間に仕上がった

    北の和室から南の和室を見る。2室の和室はひと続きで、北の和室も南の庭とのつながりを感じられる。天井は、すだれのようなサツマヨシを張ったベニヤ。和の趣が増し、ホッと落ち着ける空間に仕上がった

撮影:朝日カラー 伊藤秀樹

間取り図

  • 平面図

  • 立面図・断面図

基本データ

作品名
逢瀬町の平屋
施主
E邸
所在地
福島県郡山市
家族構成
夫婦
敷地面積
867.42㎡
延床面積
140.36㎡
予 算
3000万円台