空間づくりの妙が叶えた
子どもたちが伸びやかに過ごせる家

子どもたちが伸び伸びと生活し、家族が仲良く暮らせる家という施主の漠然とした要望に対し、「日本家屋のテイストを取り入れる」「1つの空間の中にいくつもの居場所を設ける」という方法で、見事に実現したのは、キトキノアーキテクチャの小林さんでした。

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隣地の畑を借景として利用
ダイナミックな南面を演出

愛知県安城市、駅からも徒歩約10分という利便性の高い住宅街にK邸はある。もともとこの付近でマンション住まいをされていたKさんご家族。子供が3人となりこれまでの家が手狭に感じ、戸建住宅を建てようと土地を探したものの、理想的な土地が見つからない中、出会ったのがこの土地だった。実はこの土地、約139㎡もあるものの、この辺りでは宅地としては狭い部類に入るのだという。「子どもたちが伸び伸び生活できる家」にしたいという思いを持っていたKさんご夫妻。「狭く感じる土地で、果たしてそれが実現できるのか?」という不安を相談したのが、キトキノアーキテクチャの小林さんだった。

相談を受けた小林さんは、この土地のある魅力に気づく。それは敷地南側に畑があること。この畑がもたらす抜け感を借景として利用することで、「あたかも自分の土地の延長のように感じられるだろう」と思ったのだという。

こうしてこの土地でK邸の建築が始まった。

K邸のフォルムは、道路に面した北面と、畑に面した南面で違った印象の顔をもつ。北面は、
窓は少なめですっきりとシャープな印象。一方の南面は、LDK部分に大きな開口があるのをはじめ、いくつもの窓をもち、ダイナミックさを感じる。このダイナミックさをさらに際立たせているのが、うねるような屋根の存在。屋根の東西は北側では同じ高さであるもの、西側は角度が急で、東側は緩やかになっている。また、屋根を支える梁をあえて外に見せることで、日本家屋のような力強さも感じさせている。

「西側には低層住宅、東には高層住宅があるのでそのレベルと合わせるように考えました」と小林さん。

実はK邸は、建物の形状としては台形なのだ。しかし屋根は同じ長さでかかっている。そのため、細くなっている東側は、勝手口やその先の家庭菜園スペースにまで屋根がかかり、庇のような役割を果たしている。家庭菜園スペースは、お子さんが縄跳びをしたり、将来は駐車スペースとしての利用も視野に入れている場所。そこが雨に濡れないようにという配慮だ。

通常であれば、台形の建物に同じ角度で屋根をつけるのが一般的だろう。しかし小林さんは、屋根のかけ方に一手間加えた。こうすることで、家全体の印象に躍動感をもたらし、利便性も備えた。小林さんの発想力には、驚かされるばかりだ。
  • 南面はうねったような屋根が特徴的なダイナミックなフォルム。大きく開かれた窓は、縁側のような雰囲気ももつ

    南面はうねったような屋根が特徴的なダイナミックなフォルム。大きく開かれた窓は、縁側のような雰囲気ももつ

  • 北面は、シンプルでシャープな印象。建物を凹ませた部分は窓になっており、昼間は光を導き、夜は周囲を照らす役割を果たす

    北面は、シンプルでシャープな印象。建物を凹ませた部分は窓になっており、昼間は光を導き、夜は周囲を照らす役割を果たす

  • 凹んだ部分に玄関を設けた。歩道と敷地の間にあった緑道を整備することで、自宅の庭のように利用

    凹んだ部分に玄関を設けた。歩道と敷地の間にあった緑道を整備することで、自宅の庭のように利用

1つの大きな空間のなかに
いくつもの居場所を設ける

隣地の借景や、屋根のかかりの工夫によって、外側の伸びやかさを実現した小林さん。室内は、どのようなアプローチをしたのだろう。

その答えは「1つの大きな空間の中に、いくつもの居場所を設ける」こと。K邸は、1階2階共に、それぞれ大きなワンルームといってもいいほど、部屋を仕切る壁がない。しかし、それでいながら「がらんどうの空間」という感じもしないのだ。

例えば1階には、LDKはもとより、畳が敷かれた和室スペースや、勝手口につながる土間スペースなどがある。また建物の一部をいくつか凹ませて角をつくり、あえて隅になる部分や死角になる部分を作っている。

こうすることで、1つの空間に、いくつもの居場所ができる。1つの空間の中にいるので、常に見えるところにいるものの、籠もれる場所もあるのだ。

また、2階の子供部屋もあえて部屋ではなく、子供スペースとして大きな1つの空間とした。こうすることで、通路というデットスペースをなくすことができ、広く使うことが可能だ。
まさに子どもたちが伸び伸びと生活できる空間だ。

とはいえ、子どもたちが大きくなっていけば、プライバシーを守れる「個室」だって必要となるだろう。もちろん小林さんは抜かりない。将来的には、いくつものスペースに仕切れるように、扉を設けていたり、コンセントも複数用意するなど、フレキシビリティーを持たせているのだ。

この家の出来栄えに奥様も「子どもたちが、『天井が高く、木の匂いもして気持ちいい。すぐ寝れちゃう』と言っていました。私達も1階にいても2階で遊ぶ子どもたちの様子が把握できて有り難いです」とコメントを寄せてくれた。

また奥様は、この家の家事動線の良さについても嬉しさを感じているのだという。例えば、洗濯は、2階の洗面所にある洗濯機で洗濯をし、隣にあるデッキで干す。そして同じゾーンにある収納コーナーにしまうという、最小限の移動で完結する動線となっている。家事動線問題は、意外と気づかないことも多く、ちょっとしたストレスが、家全体の暮らしやすさの評価に影響しやすい部分でもある。細やかな気遣いができる小林さんだからこそ、家事を担うことの多い女性が、ストレスなく家事を行える動線を作れるのかもしれない。

小林さんは、家づくりにおいて施主との対話を大切にされている。じっくりと施主と向き合い対話を重ねることで、施主の真の思いに気づき、それを設計に反映させるのだ。

今回のK邸のように「子どもたちが伸び伸びと」「家族仲良く」という漠然とした要望であっても、対話を重ねることで、希望を見事に叶える形に具現化してくれるのだ。

またどこかに、小林さんに思い通りの家を作ってもらった施主が現れるに違いない。
  • キッチンとダイニングテーブルを一体で造作。洗い物をすぐに移動させたり、料理をしながら、子供の勉強を見ることも。キッチンの床は1段下がった土間仕上げにすることで、座る高さとキッチンに立つ高さを調整

    キッチンとダイニングテーブルを一体で造作。洗い物をすぐに移動させたり、料理をしながら、子供の勉強を見ることも。キッチンの床は1段下がった土間仕上げにすることで、座る高さとキッチンに立つ高さを調整

  • 南面には大きな開口。隣地の畑が自宅の庭のような借景となり、開放感抜群

    南面には大きな開口。隣地の畑が自宅の庭のような借景となり、開放感抜群

  • 2階への階段は、キッチンの上部に。こうすることで、キッチンやダイニングにいながら、2階の様子も感じ取ることができる

    2階への階段は、キッチンの上部に。こうすることで、キッチンやダイニングにいながら、2階の様子も感じ取ることができる

  • 玄関を入って左には、土間が続きシューズクローゼットを設置。床を掘り下げ、畳を埋め込んだ和室コーナーは、客間としても利用可能

    玄関を入って左には、土間が続きシューズクローゼットを設置。床を掘り下げ、畳を埋め込んだ和室コーナーは、客間としても利用可能

  • 畳コーナーの先には、来客用の個室を設け、プライバシーへの配慮も十分。

    畳コーナーの先には、来客用の個室を設け、プライバシーへの配慮も十分。

撮影:Ookura Hideki

間取り図

  • 1F間取り図

  • 2F間取り図

基本データ

作品名
安城の家・畑・緑道
施主
K邸
所在地
愛知県 安城市
家族構成
夫婦+子供3人
敷地面積
138.69㎡㎡
延床面積
146.25㎡㎡
予 算
4000万円台