能古島へ移住を決めたHさま夫妻。島での2年間の借家暮らしを通じ、よりよい環境で暮らすためには、地域の人たちと交流しながらプライバシーを確保することが大切だと考えた。建築家の水谷さんは、それらに重きをおいて家を設計。景観に馴染むと同時に地域に新しい風を吹き込む家をつくった。
この建築家に外観。道路から見える場所は島の伝統に習い、外壁に焼杉を使用。軒を低く抑え家の圧迫感を無くした。家の右にあるのは、以前ここに立っていた家から受け継いだ梅の木。玄関までつづく飛び石もその家屋で使われていたもの。家の前の植栽も能古島の植生に適したものを選んだ
庭側から家を見る。道路から見えない部分の外壁にはガルバリウム鋼板を用いた。庭に向かって大きな窓を配置し、庭からLDKまでがひとつになったような雰囲気。LDKと庭に道路から直接アプローチできるため、地域の人や友人たちを招きやすい。気軽に交流できる、大切な場所だ
LDK。キッチンの上にはロフトがある。大きな傘のような天井が大らかに空間を包み込み、開放的だ。天井が高いおかげでロフトの上にもゆとりがあり、使い方の可能性も広がった。画像奥に見えるステンドグラスは、ご主人がデザインし、奥さまのお母さまが制作したもの
LDK。庭に続く窓の横幅は3m。開け放つと外部と一体となり、開放感いっぱいのLDKとなる。Hさま夫妻は裸足で過ごすことが多いため、床材は柔らかく温かみがある杉材とした。画像奥は薪ストーブを楽しむスペース。天井が低く、落ち着いた時間が過ごせる
庭側の窓から室内を見る。右のガラス戸は玄関に続く。廊下を設けず、動線の工夫や天井の高さを変化させて領域を分けることで、ゆとりある、表情豊かな空間となった。扉はすべて引き戸とした。「開き具合を調節でき、また開けたときにスペースを取らないのがよい」と水谷さん
薪ストーブを楽しむスペースからLDKを見る。庭につながる大きな窓には吉村障子を採用した。柔らかく室内に入る光が美しい
道路から見た「島の家001」。LDKとロフトのある方形屋根の部分を、高さを低く抑えた軒と焼杉の外壁の部分が囲み、集落の景観に溶け込んでいる。垣根がなくオープンな雰囲気ながら道路や隣家から距離を取って家を配置し、外から家の中の様子が直接見えてしまう心配をなくした
ダイニング、キッチン、ロフト。キッチン奥の収納棚はすっぽり隠せる引き戸を設けた。キッチンの両側にある通路を抜けた先には寝室などがある。構造を現しにした天井を美しく見せるよう、ダイニングにはペンダントライトではなくアームライトを採用した
夕刻の「島の家001」。玄関に灯る明かりやライトアップされた植栽や外壁が美しく、近隣の人たちの目を楽しませている。これにより道が明るくなることで、夜道を歩く人の安心感も増すだろう
撮影:ブリッツスタジオ 石井紀久