街とつながり、「楽しい」が増える場所。
北向きでも採光抜群、緑豊かな店舗併用住宅

暮らしも、仕事も、街の人々との交流も充実し、毎日が楽しい。福井啓介さん、森川啓介さんが設計した『HOUSE F』は、そんな新生活がかなう店舗・オフィス併用住宅。人生までぐっと豊かになりそうな、幸せな予感を与えてくれる建築だ。

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住居、オフィス、カフェ、街。
多彩な要素がグラデーションでつながる

「かまくらは、一番小さな公共建築だと思うんです」

建築家の福井啓介さんと森川啓介さんは、2人が運営する設計事務所・かまくらスタジオの名前の由来についてそう話す。冬の風物詩であるかまくらはみんなで一緒につくってみんなで入ることができ、そこからコミュニケーションが生まれ、和気あいあいとした楽しい光景を街の中につくり出す。かまくらスタジオという名前には、そんな建築を提供したいとの思いが込められているという。

2人が設計した『HOUSE F』は、その思いを具現化したような建築だ。場所は、自然豊かな住宅街として人気の千葉・流山おおたかの森駅から歩いてすぐ。1階にかまくらスタジオのオフィスとカフェ、2~3階に福井さん一家の住居がある鉄骨造3階建ての建物で、緑に包まれたモダンな佇まいが目を引く。

2人は設計にあたって考えたことをこう話す。「暮らしと仕事、仕事と街、家族や仲間とご近所の方々……。一見すると別物に思えるヒト・モノ・コトがゆるやかにつながり、楽しみを共有できる場所をつくりたいと思いました」

その言葉通り、『HOUSE F』は住居、オフィス、カフェ、街の境界が曖昧で、自然なグラデーションでつながる空間だ。

住居へのファミリーエントランスは1階のオフィス内。夜は1階で家族が憩うこともあり、生活と仕事の空間がなんとなくつながっている。また、オフィスは北の前面道路側に大開口とウッドデッキテラスを設けたオープンな造りで、仕事と街もなんとなくつながっている。

近隣の子どもたちの遊び場になっている東の路地裏側には、ガラス張りの通用口を設けた。路地裏からは『HOUSE F』の内部や北の道路を見通せて、ここにもゆるやかなつながりが生まれている。

極めつけはカフェスペースだ。1階はかまくらスタジオのオフィスと、誰でも立ち寄れるカフェが共存。オフィスとカフェに仕切り壁などはなく、仕事と余暇もなんとなくつながっている。そして、そこで働く2人とカフェでくつろぐ人々も、なんとなくつながっている。

この『HOUSE F』の設計テーマとなった「つながり」や「共有」について、もう少し詳しい話を聞いてみた。
  • 北の前面道路側の外観。鉄骨造3階建ての建物は1階がオフィスとカフェ、2~3階が福井さん一家の住居。淡いベージュグレー、レッドシダーの外壁と、贅沢な植栽が調和するモダンな佇まいが目を引く。画像左側にあるシンボルツリーは、小豆島で育った樹齢70年のオリーブの木

    北の前面道路側の外観。鉄骨造3階建ての建物は1階がオフィスとカフェ、2~3階が福井さん一家の住居。淡いベージュグレー、レッドシダーの外壁と、贅沢な植栽が調和するモダンな佇まいが目を引く。画像左側にあるシンボルツリーは、小豆島で育った樹齢70年のオリーブの木

  • 西の外観。敷地は南に隣家が立つ北西角地。建物は北向きになるため、内部に南の光を取り込むテラスを多数配した。テラスは南から北(画像右から左)にかけて徐々に低くなるよう段状に計画され、南の高い位置から入る光が北側まで透過。内部はとても明るく、植物にも光が届く

    西の外観。敷地は南に隣家が立つ北西角地。建物は北向きになるため、内部に南の光を取り込むテラスを多数配した。テラスは南から北(画像右から左)にかけて徐々に低くなるよう段状に計画され、南の高い位置から入る光が北側まで透過。内部はとても明るく、植物にも光が届く

  • 前面道路に面した北側は、街の人と緑を共有できるよう、たくさんの植物を植えている。植物は適度に視線をカットし、プライバシー確保と街とのつながりを両立させる役割も。白い軒裏は反射する素材を使用。ここに映し出される緑も、実像の植物とはひと味違う美しさで目を楽しませる

    前面道路に面した北側は、街の人と緑を共有できるよう、たくさんの植物を植えている。植物は適度に視線をカットし、プライバシー確保と街とのつながりを両立させる役割も。白い軒裏は反射する素材を使用。ここに映し出される緑も、実像の植物とはひと味違う美しさで目を楽しませる

  • 1階のオフィスとカフェは、ウッドデッキテラスとひと続きの開放的な空間。緑越しに街の気配を感じられる

    1階のオフィスとカフェは、ウッドデッキテラスとひと続きの開放的な空間。緑越しに街の気配を感じられる

「誰かと共有することで、自分も楽しく」
普通の毎日がきらきら輝くような場所

話を聞くと2人が目指した「つながり」や「共有」は、昭和のご近所づきあいを彷彿とさせるシンプルで温かなものだった。

暮らしをちょっと拡げて外部とのつながりをつくり、自分たちの楽しみを周囲の方にもおすそわけしたら、もっと楽しく豊かになると2人はいう。

「なぜならおすそわけを前提にすると、自分たちだけの『ケ』を超えて『ハレ』になり、何をするにも張りが生まれてくるからです」。その結果、ほかならぬ自分自身も『ハレ』を楽しめるというわけだ。

『HOUSE F』の場合、オフィスと同一空間に設けられたカフェがその好例だ。

2人はコーヒーが好きでよく淹れる。たくさん飲むから、ほかの人の分も淹れようか? だったら、生豆を買って焙煎もして、とびきりおいしいコーヒーを淹れよう──。楽しみをおすそわけしようとしてつくられたカフェは、2人自身にも「おいしいコーヒーを飲みながら仕事をする」という嬉しい日常をもたらす。

「他者と共有することで自分たちも楽しむ」という考え方は、店舗をもたない住宅にも通じる。例えば植物を植えるとき、ご近所さんにも楽しんでもらえるように趣向を凝らすと、自分たちの暮らしも素敵な緑に彩られる。『HOUSE F』も植栽にこだわり、シンボルツリーは小豆島で育った樹齢70年のオリーブの木を選定。絵本から抜け出たようなチャーミングな木が、道行く人の目を楽しませている。

『HOUSE F』は、施工期間中から「何ができるんですか?」と声をかけられ街の人との交流が始まることも多かったという。「自分も使える新スポットができるのかな?」と期待を抱かせ、コミュニケーションやワクワク感を創出していたということだ。

街の人々がそう感じたのは、居心地のよさそうな洗練された佇まい、街にひらいたオープンな建築の魅力があったから。「ごくフツーの家」だと感じたら、完成を待つ楽しみも、かまくらスタジオの2人との交流も生まれることはなかっただろう。
  • 1階はかまくらスタジオのオフィスとカフェ。前面道路に面した北側(画像正面)は全面ガラス張りで、街に対してオープンな造り。ウッドデッキテラス周辺は明るく開放的だが、カフェ用のキッチンまわりは少しこもり感もあり、ワンルームでありながらさまざまな居心地を楽しめる

    1階はかまくらスタジオのオフィスとカフェ。前面道路に面した北側(画像正面)は全面ガラス張りで、街に対してオープンな造り。ウッドデッキテラス周辺は明るく開放的だが、カフェ用のキッチンまわりは少しこもり感もあり、ワンルームでありながらさまざまな居心地を楽しめる

  • 1階はオフィスとカフェだが、ときには一家団らんの場になることも。『HOUSE F』は暮らしと仕事の境界もいい意味で曖昧だ。画像右奥のガラス戸は、東の路地裏に出られる通用口。路地裏で遊ぶ近隣の子どもたちをそれとなく見守ることができ、温かなつながりが生まれる

    1階はオフィスとカフェだが、ときには一家団らんの場になることも。『HOUSE F』は暮らしと仕事の境界もいい意味で曖昧だ。画像右奥のガラス戸は、東の路地裏に出られる通用口。路地裏で遊ぶ近隣の子どもたちをそれとなく見守ることができ、温かなつながりが生まれる

  • 1階夕景。「暮らしに不可欠なエネルギーや環境に意識を向けるきっかけになれば」と、薪ストーブを設置。薪は千葉の八千代から引き取ってくる間伐材や廃材を用いている。薪ストーブが設置されたグレーのカウンターは屋外まで続き、室内では収納、屋外ではプランターとして活躍

    1階夕景。「暮らしに不可欠なエネルギーや環境に意識を向けるきっかけになれば」と、薪ストーブを設置。薪は千葉の八千代から引き取ってくる間伐材や廃材を用いている。薪ストーブが設置されたグレーのカウンターは屋外まで続き、室内では収納、屋外ではプランターとして活躍

  • 2階。住居のダイニング&キッチン。『HOUSE F』はテラスごとに植栽の性格を変えており、キッチンに近いテラスにはハーブや実のなる植物を植えている。ブルーベリーの時季はお子さまが大喜びで摘んでいたそう

    2階。住居のダイニング&キッチン。『HOUSE F』はテラスごとに植栽の性格を変えており、キッチンに近いテラスにはハーブや実のなる植物を植えている。ブルーベリーの時季はお子さまが大喜びで摘んでいたそう

  • 2階。ダイニング上部の吹抜けを介し、3階のスタディスペースにいるお子さまの気配がわかる

    2階。ダイニング上部の吹抜けを介し、3階のスタディスペースにいるお子さまの気配がわかる

北向きでも明るくのびやか。
サンドイッチ状の内部空間×テラス

「つながり」「共有」をテーマに『HOUSE F』をプランニングする際、2人がお手本にしたのは森だったという。

「森は多様な動植物がいますが明確な境界はなく、森の中にいても外にいても恩恵を得られる場所です。流山おおたかの森は植物が好きな方が多く、植物の株を分け合うネットワークがあるほど。植物を通したコミュニケーションが存在することからも、森という概念はぴったりだと感じました」

そこで2人は、『HOUSE F』全体に多くの植物を配するために、そこかしこにテラスを計画。1階は前面道路に面した北側に緑豊かなウッドデッキテラスを設け、2階、3階も北側にテラスを配置。ほか、2階は浴室にバスコート、3階は寝室の前に中庭風のテラス、屋上にはルーフテラスをつくっている。

ポイントは、これらのテラスと内部空間が平面的・断面的にサンドイッチ状になっていることだ。例えば吹抜けのある2階は、上部が3階の北側テラスと寝室前のテラスに挟まれている。そのため吹抜け上部の窓を介し、2階にいながら3階の緑を感じることができる。

そして森をイメージしたこの設計のもう1つの目的は、内部の至るところに自然光を取り込むこと。お気づきかもしれないが『HOUSE F』は北向きの建物。なのに、そんな条件が信じられないほど建物内は明るくのびやか。陽光にあふれ、あちこちで緑や青空が目に入り、本当に「森の中にいるような」心地よさを味わえる。

と同時に、テラスや吹抜けを介した空間のつながりも生まれており、2階にLDK、3階に個室やスタディスペースがある住居内では、どこにいても家族のほどよい一体感を得られる。

「北向きなのに明るい」をお伝えしていたら、最後は「つながり」の話に戻ってしまった。やっぱり、『HOUSE F』は建築が生み出すさまざまなつながりが、家族の暮らしも仕事も街の人々とのかかわりも、全てを豊かにしてくれる場所なのだ。
  • 2階のリビングスペース。画像右の吹抜け上部は3階にある2つのテラスに挟まれており、頭上から明るい陽光が入ってくる。床や造作家具はチーク材、DIYで塗装した壁はラフに塗っても味わいが出る塗料を使用。天井はヒノキで、全体の質感、色調のバランスがとてもよい

    2階のリビングスペース。画像右の吹抜け上部は3階にある2つのテラスに挟まれており、頭上から明るい陽光が入ってくる。床や造作家具はチーク材、DIYで塗装した壁はラフに塗っても味わいが出る塗料を使用。天井はヒノキで、全体の質感、色調のバランスがとてもよい

  • 3階のスタディスペース。南(画像右)のハイサイド窓から入る陽光は、スタディスペース前方の吹抜けを通り、2階の住空間や2階テラスの植物にも届く。東(画像奥)には中庭風のテラスもあり、そこかしこから自然光が入ってくる

    3階のスタディスペース。南(画像右)のハイサイド窓から入る陽光は、スタディスペース前方の吹抜けを通り、2階の住空間や2階テラスの植物にも届く。東(画像奥)には中庭風のテラスもあり、そこかしこから自然光が入ってくる

  • 3階の寝室。画像正面は中庭風のテラス、その先が2階の吹抜け上部。テラスは2つの内部空間に挟まれ、室内にたっぷりの光を届ける。このテラスの植栽は、リラックス効果を期待できるラベンダーやティーツリー。窓を開けると、心地よい風と癒やされる香りが寝室に入ってくる

    3階の寝室。画像正面は中庭風のテラス、その先が2階の吹抜け上部。テラスは2つの内部空間に挟まれ、室内にたっぷりの光を届ける。このテラスの植栽は、リラックス効果を期待できるラベンダーやティーツリー。窓を開けると、心地よい風と癒やされる香りが寝室に入ってくる

  • 3階にある中庭風のテラス。室内にいても緑をすぐそこに感じられ、心地よく暮らせる

    3階にある中庭風のテラス。室内にいても緑をすぐそこに感じられ、心地よく暮らせる

撮影:Toreal 藤井浩司

間取り図

  • 1F間取り図

  • 配置図

  • 断面図

基本データ

作品名
HOUSE F
施主
F邸
所在地
千葉県流山市
家族構成
夫婦+子供3人
敷地面積
135.00㎡
延床面積
169.00㎡
予 算
5000万円台