築90年の生家を新たな住まいに!
建築家が自ら設計した「理想の二世帯住宅」

結婚を機にご両親と住む二世帯住宅を建てることになった、スタウトキャッスル一級建築士事務所の松隈 守城さん。完成したのは築90年の生家で使われていた建材やもともとあった蔵をそのまま生かしたモダンな住まいだった。周囲に溶け込むデザインが評価され、みごと福岡市都市景観賞も受賞したという松隈邸。その詳細をご紹介しよう。

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陽光注ぐ空間、BBQテラス…
両親と設計者の夢が詰まった新居

今回紹介するのは、松隈さんが現在も住まう二世帯住宅だ。こちらは、松隈さんが結婚を機に自ら設計して建てたもの。西方沖地震により破損したままになっていた、築90年ほどの生家を立て直してできた家である。もともとあった蔵と揃えて白と黒で統一したモダンな外観は、昔からここに建っていたかのように、自然に周囲の家々と馴染んでいる。

「設計にあたっては、元の家は古いこともあり暗くて寒かったので、なるべく明かりを取り入れること、また、両親の要望を受けて、既存の蔵とお地蔵様が祭られている祠を残すことなどを前提にプランを考えました。自分の家ということで好きなことができるので、設計も楽しかったですね」。
と、設計当初を振り返る松隈さん。
間取りは昔住んでいた家をベースにし、高齢のご両親のことを考えて練り直したのだという。

それでは早速、松隈邸の間取りを見てみよう。玄関を入ると、玄関ホールを挟んで正面は中庭になっている。隣家の庭がとても美しかったため、玄関の奥をガラス張りにし、中庭と共に借景を楽しめるデザインとした。

来客が多いということで、入ってすぐ右側には応接室が。そしてその奥には、ご両親の寝室が配されている。足腰が弱っていた高齢のご両親のために、寝室からほど近い場所にバリアフリーのトイレと浴室、洗面脱衣所を設置。楽に移動できるよう工夫した。寝室を出てすぐの場所には屋内エレベータもあり、2階へもスムーズに移動できるようになっている。

「浴室は露天風呂にしたい。という要望がご両親からありましたが、メンテナンスが大変なため浴室の壁を檜にし、天井をガラス張りにすることで癒しと開放感を演出しました。さらに浴室の隣に坪庭を配することで、景色も楽しめるように工夫しています」と、松隈さんは語る。

そして、玄関の左側には、吹き抜けの明るい食堂とリビングが。さらにその奥に配されているのが、キッチンとご両親のための和室である。この和室には掘りごたつも設けられており、冬でも温かく快適に過ごせるそうだ。

そして、リビングの奥には、来客用の大広間がある。リビング・食堂とこの大広間をつなげるとかなり広い空間となるため、法事などで多くの親戚が集まるときにも便利なのだそう。この大広間には玄関を入ってから廊下を通ってアプロ―チできるよう工夫されており、リビングや食堂を通らなくても来客を通せるようになっている。
  • 開放感溢れる吹き抜けのリビング。中央のローカウンターには昔の家にあったケヤキの木材をそのまま用いている

    開放感溢れる吹き抜けのリビング。中央のローカウンターには昔の家にあったケヤキの木材をそのまま用いている

  • 正面から見た外観。左手に昔からの蔵、そして右側には駐車スペースが設けられている

    正面から見た外観。左手に昔からの蔵、そして右側には駐車スペースが設けられている

  • 玄関入って右側にある階段ホール。ご両親から古民家風の色合いにしたいという要望があったため濃い色の天然木を使い、落ち着いた雰囲気を醸し出している。奥はガラス張りになっており、中庭と隣家の庭の借景を望む

    玄関入って右側にある階段ホール。ご両親から古民家風の色合いにしたいという要望があったため濃い色の天然木を使い、落ち着いた雰囲気を醸し出している。奥はガラス張りになっており、中庭と隣家の庭の借景を望む

  • 玉砂利を敷き、植栽を置いた中庭。このスペースがあることによって、玄関に抜け感が生まれている

    玉砂利を敷き、植栽を置いた中庭。このスペースがあることによって、玄関に抜け感が生まれている

あえて世帯で空間を分けず
ご両親に目が行き届くレイアウトに

2階に上がると、吹き抜けを中心として左側に2人の子ども用の子ども部屋と、松隈さんご夫婦の寝室が。さらに右側には松隈さんの仕事場ともなるライブラリーを備えたパブリックスペースと、お父様用の部屋が用意されている。お父様は事業をされているため、その事務作業の場として使われているそうだ。

通常の二世帯住宅のように、親世代と子世代の間取りが明確に分かれていないのも、松隈邸のユニークなところ。その理由について、松隈さんはこう語る。
「以前の家も三世帯の大家族で暮らしていたため、もともと世代で空間を分けるという感覚がなかったんです。両親も高齢になっていたので、いつでも目が届くよう、あえて世帯で空間を分けない間取りを心がけました」。

自身の家ということで、スムーズに完成までたどり着くことができたと話す松隈さん。「苦労したことはあまりありませんが、大広間の欄間など、昔の家の建具を使っているところは、サイズ調整が少し大変でした。また、空調のドレーンなどが外に出てしまいがちだったので、これをいかに外壁に出さないようにするかというところは、少し苦労しましたね。あとは、浴室ができたあと、両親からやっぱり暗いという話があって、コンクリートの壁を壊して窓にしたりもしました(笑)」と振り返る。

こうして、松隈さん、ご両親の希望をすべて叶える形で完成した松隈邸。段差がなく使いやすい間取りは、ご両親はもちろん、訪れるお客様からも好評だそう。今も松隈さんとお子さん、ご両親の三世帯が、この家で楽しく暮らしている。

住む人に寄り添う住宅づくりを得意とする松隈さんだが、もともと賃貸経営の実績があり、さらに独立前はアパートやマンションの設計も行っていたそう。「賃貸経営の収支計算もできますし、不動産管理をしている会社ともリレーションがありますので、要望がある方はぜひお声がけいただけると嬉しいですね」。とのこと。

これまでの知見を活かして、マンション・アパートの設計だけでなく、賃貸経営のコンサルティングまで行うことが可能だそう。一般の住宅はもちろんだが、賃貸経営に興味がある方にも、松隈さんは力強い味方となってくれそうだ。
  • 吹き抜け。手すりをルーバーのようにデザインし、和モダンな落ち着いた雰囲気を出している。1階の薪ストーブと床暖房の熱を循環するために天井にはファンを設置した

    吹き抜け。手すりをルーバーのようにデザインし、和モダンな落ち着いた雰囲気を出している。1階の薪ストーブと床暖房の熱を循環するために天井にはファンを設置した

  • 今回造作したアイランドキッチン。配膳するスペースや収納スペースも設けられており、使い勝手がいいデザインとなっている。窓からは中庭を望み、景色を楽しみながら料理をすることができる

    今回造作したアイランドキッチン。配膳するスペースや収納スペースも設けられており、使い勝手がいいデザインとなっている。窓からは中庭を望み、景色を楽しみながら料理をすることができる

  • お母様の趣味であるというアンティークの扉を取り付けた応接室。照明にはガレの作品を用い、雰囲気のある空間に

    お母様の趣味であるというアンティークの扉を取り付けた応接室。照明にはガレの作品を用い、雰囲気のある空間に

  • 2階のパブリックスペース。前はガレージの屋上になっており、ここに干した洗濯物をたたむスペースにもなっている

    2階のパブリックスペース。前はガレージの屋上になっており、ここに干した洗濯物をたたむスペースにもなっている

  • 1階の脱衣所。洗面台が2台あり、手前には浴室がある。ガラス戸を通して明るい光が入るほか、戸を開けることで風が通る

    1階の脱衣所。洗面台が2台あり、手前には浴室がある。ガラス戸を通して明るい光が入るほか、戸を開けることで風が通る

間取り図

  • 1F間取り図

  • 2F間取り図

基本データ

施主
M邸
所在地
福岡市城南区
家族構成
2世帯
敷地面積
583.05㎡
延床面積
406.69㎡
予 算
5000万円台