既存住宅の内装改修計画。
これまで私たちがスタンダードだと疑わなかった世界が、未曾有のウィルスの影響により、1年足らずであっという間に変わってしまった。満員電車に乗って通勤し、帰宅する。週末は家でゆっくりする。当たり前だった生活のサイクルは一変し、これまでの世界のバランスが一気にひっくり返ったような感覚だ。
ほんの少しの変化で、これまで当たり前だと思っていたこと、価値を疑わなかったものが無価値になってしまうこともある。世界は、ものすごく繊細なバランスで成り立っていたのだ。
住宅は、夜帰宅して寝る所、週末でくつろぐところから、仕事場でもあり、家族との生活の場でもあり、就寝の場でもあり安らぎの場でもあるというマルチな役割を担う存在へと変貌している。各人により住まいに求めるものもますます多様化し何が、住まいにおけるノーマルなのかが揺らいでいる。
今回の改修計画では、既存の住宅の形状は決まっていたので、それらを生かすことと、長時間住まいに滞在することを前提としてスタートした。
「つなげること・きりはなすこと」
従来の建築的な手法として1つの素材や1つのルールで全体をまとめ、ある世界観を作り出す。そうした手法だとどこにいても同じような空間となってしまうと考え、なるべく異種の素材を使用しながらも、それらが馴染むように質感や色調を調整することで、個々は別々だが、なんとなく全体の統一感があるというようなコントロールの方法を考えた。
具体的には、なんとなくまとまりが出そうな各スペース同士で、床は繋げるが、壁は袖壁を強調して見切り材を入れてみる、壁は異素材だが、天井の素材は連続させる、繋がっている場所だが角にミラーを入れて空間を切り離す、別々の部屋だが照明は繋がっている等。
壁、天井、床、照明、見切り、建築的な種々のパラメーターを繋げたり切離したりしながら計画する。木質、磁器質、塗装の質感、それぞれの素材の質感と配置を調整し全体の統制はとりながらも、個々のスペースで異なる様相が表れるような空間計画を試みている