快適動線と洗練デザインに大満足。
「図面の見える化」で納得の家づくり

完成イメージを写真のような画像にしながら、納得の家づくりを進めてくれる建築家の完山剛さん。M邸では少ない要望を見事にふくらませ、大満足の住宅を設計。洗練されたデザインや快適動線、吹抜けを活用した採光など、参考にしたいトピックが満載の家だ。

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ざっくりした要望しかなくても、
理想の家のイメージを引き出してくれる

建てたい家をどれだけ具体的にイメージしているかは、人によってさまざまだ。たとえイメージがあっても、最初は必要最低限の要望を伝え、建築家がどんな風に具現化してくれるか見てみたいという人もいるだろう。

アトリエスイッチ一級建築士事務所の完山剛さんが設計した大阪・八尾市のM邸も、要望がシンプルだった。ご夫妻とお子さま2人の4人家族であるMさまからのリクエストは、「4LDK」と「2台分の駐車スペース」の2点。空間構成やデザインの自由度が高い分、設計者にしてみればプランの取っ掛かりに迷ってしまいそうである。

しかし完山さんは、「細かなご要望がないということは、見方を変えれば、“僕ら建築家が考える住み心地のよい家をご提案できる”ともいえます」と話す。「ご提案のときにいつも意識しているのは、“自分自身が住みたい家であること”です。それはご要望が細やかであろうがシンプルであろうが変わりません」

要望がシンプルな場合、まず完山さんは検討のタタキとなる具体案を出す。もちろん自分が住みたいと思う家を提案するが、この時点では「全部ひっくり返ってもいい」という気持ちでいる。

それでも具体案を提示するのは、実際にプランがあれば「ここはこうしたい」「こういうものを加えたい」と、望む住まいのカタチが施主の中でどんどん鮮明になるからだ。これは、計画当初の段階で具体的なイメージをもたない施主にとって、非常にありがたい進め方だろう。

M邸では、最初に2つのプランを提案。いずれも「採光・プライバシー確保をふまえた建物配置」と「人の動きを考慮した動線」にこだわっているが、駐車スペースの取り方が違っていた。Mさまはどちらの案も気に入ってくださり、車2台を並列駐車するパターンを選択。家づくりに向けて本格的なプランニングが始まった。
  • 東の外観。1階より2階が大きいデザインが洒落ているが、軒スペースができて雨除けになるというメリットも

    東の外観。1階より2階が大きいデザインが洒落ているが、軒スペースができて雨除けになるというメリットも

  • 建物はL字型。2階がはね出した個性的なデザインと、白と黒のすっきりとした2トーンカラーで洗練された印象に。古くからの家も立ち並ぶ住宅街に馴染みつつも人目を引く佇まいに、近隣の方々からお褒めの言葉をいただくことも多いそう

    建物はL字型。2階がはね出した個性的なデザインと、白と黒のすっきりとした2トーンカラーで洗練された印象に。古くからの家も立ち並ぶ住宅街に馴染みつつも人目を引く佇まいに、近隣の方々からお褒めの言葉をいただくことも多いそう

  • ゆったりとした玄関ポーチ。玄関は少し奥まった場所に配置。こうしたスペースの余裕が高級感を生み出す

    ゆったりとした玄関ポーチ。玄関は少し奥まった場所に配置。こうしたスペースの余裕が高級感を生み出す

暮らしのリアルを考え抜いた、
万能動線で大満足の住み心地

完成したM邸は東の道路に向かってL字になったモダンな建物。2階建てだが2階は1階よりも少しはね出した個性的なフォルムで、外壁もモノトーンのシンプルな2トーンカラーで洒落ている。

「素敵な家が建ちましたね」と、近隣の方々から声をかけられる外観もさることながら、邸内も魅力的な住宅だ。最大の特徴は機能的で住み心地がよく、家族がコミュニケーションしやすい回遊動線だろう。完山さんはどの家づくりでも人の動きを考慮した動線を熟考。M邸も「家事動線」「家族の動線」「来客の動線」が実によく考えられている。

まず玄関を入ると、正面の廊下の突き当りにLDKのキッチンスペースに続く引き戸がある。その左手には、LDKのリビング・ダイニング側に入るドア。

つまり玄関からLDKへの動線は、まっすぐ進んで直接キッチンに入るパターンと、リビング側に入るパターンの2通り。そしてキッチンの奥には浴室・洗面室と、個室のある2階への階段が。キッチンの引き戸とリビングのドアを開ければ、浴室・洗面室や階段にもつながるキッチンまわりをぐるりと回遊できる。

この動線によって、買い物帰りに直接キッチンに入って荷物を置く、洗面室とキッチンを行き来して料理・洗濯を同時進行するといった快適な「家事動線」が実現。2階に行く際は、キッチン経由またはリビング経由で必ずLDKを通るので、コミュニケーションが自然に生まれる「家族の動線」もかなえられている。

「来客の動線」も完璧だ。キッチンの引き戸を閉めれば、玄関から生活空間への視線をカット。キッチンはリビング・ダイニングを見渡せるオープンな対面式だが、コンロや冷蔵庫、手元などがリビング側から見えない設計。来客時はリビング側へ入るドアからお迎えし、生活感を見せずにおもてなしできる。

家族の日常から来客シーンまで、暮らしのリアルを受け止める万能動線にMさまも大満足。人の動きをしっかりイメージした設計が、ストレスのない快適生活をかなえるお手本のような住まいだ。
  • 玄関土間。写真右は大容量のクローク。廊下の突き当りに見える引き戸はLDKのキッチンスペースにつながる

    玄関土間。写真右は大容量のクローク。廊下の突き当りに見える引き戸はLDKのキッチンスペースにつながる

  • 突き当りの引き戸を開けておけば玄関から直接キッチンへ行ける。その左手にはリビング側に入るドアがある

    突き当りの引き戸を開けておけば玄関から直接キッチンへ行ける。その左手にはリビング側に入るドアがある

施主に大好評の「図面の見える化」。
納得のいくスムーズな家づくりを

M邸のLDKは南の大開口からたっぷり光が入る空間だが、東側に設けられた吹抜けによる採光効果も見逃せない。

この吹抜けは空調効率などを考慮して、2階とのつながりはつくっていない。あくまでも主な目的は明かりとり。吹抜け上部にはスリット窓が3つあり、高い位置から東の爽やかな光が入る。しかも、白壁に反射して広がるので光が柔らか。天然の間接照明のような陽光に包まれ、気持ちよくくつろげる。

だがこうした空間は、プランニング段階の図面や口頭説明だけではイメージしにくい部分があるのも否めない。

そこで完山さんが実施しているのがBIM(ビム:Building Information Modelingの略)による「図面の見える化」だ。建築物の情報を3D化し、できあがる家の様子や光の入り方などを写真のようにリアルな画像で見せてくれるのだ。

どんな家になるのか画像で確認できるのは、施主にとってうれしい限り。しかし完山さんは、設計内容を施主にわかりやすく伝えられることが最大のメリットだとしつつも、BIMのメリットはそれだけではないと話す。

「BIMは、図面が実際にどうなるか設計者自身も正確に確認できるので、施工段階での食い違いを防ぎやすいんです」

細かな部分が図面通りにいかないことが施工段階で判明すると、後手後手の対応が生じてコストが加算されるケースもある。だが、BIMを熟知し完璧に使いこなす完山さんの設計なら、本番の施工での番狂わせを回避できる。見落としがちだが、スムーズな家づくりを実現するにはとても重要なポイントだろう。

プランの進め方にせよBIMの活用にせよ、完山さんの中での最終的な目的は「今も、5年後や10年後も、施主さまが豊かに暮らせる住宅をつくること」だという。

「そのためにはご希望の住まい方やライフプランを共有させていただき、一緒につくっていくことを大事にしたいと考えています。こだわりがあれば全力で形にしますし、具体的なイメージがなくても、イメージを具現化していくお手伝いをさせていただければ」と、にこやかに話してくれた。
  • LDKの東側には採光と開放感を得る吹抜けが。上部のスリット窓から入る明るい光が、邸内に柔らかく広がる

    LDKの東側には採光と開放感を得る吹抜けが。上部のスリット窓から入る明るい光が、邸内に柔らかく広がる

  • LDK。客間にもなる畳スペースは、ライフスタイルの変化に応じて仕切りを設け、独立した部屋にすることも可能。キッチン(写真右)の奥は水まわりと階段。LDKの出入口の引き戸とドアを開けると、リビング・ダイニング~水まわり・階段~キッチン~玄関への廊下を回遊できる

    LDK。客間にもなる畳スペースは、ライフスタイルの変化に応じて仕切りを設け、独立した部屋にすることも可能。キッチン(写真右)の奥は水まわりと階段。LDKの出入口の引き戸とドアを開けると、リビング・ダイニング~水まわり・階段~キッチン~玄関への廊下を回遊できる

  • キッチンから玄関への廊下を見る。キッチンは、生活感のあるコンロや手元がリビング側から見えない設計

    キッチンから玄関への廊下を見る。キッチンは、生活感のあるコンロや手元がリビング側から見えない設計

撮影:Shotaro Kaide(貝出翔太朗)

基本データ

施主
M邸
所在地
大阪府八尾市
家族構成
夫婦+子供2人
敷地面積
144.41㎡
延床面積
123.57㎡
予 算
3000万円台