ひとつの建物に賃貸住戸と自宅が入った賃貸併用住宅。入居者は決まるのか、自宅は狭くなったりしないだろうか。平井直樹建築設計事務所の平井直樹さんは、オーナーが不安に感じるだろうポイントを払いのけるように、それぞれに違う個性を持つ賃貸2住戸と、申し分ない住環境を備えた自宅を一つの建物に成立させた。
この建築家に賃貸2住戸を伴う併用住宅であるS邸の構成ダイアグラム。赤部分がフラットな賃貸A住戸、青部分が3層に広がる賃貸B住戸。自宅はベージュ部分に配置した。賃貸2住戸がそれぞれ魅力を持ち、S様のご自宅へのご要望も全て成立させたプランになっている
1階賃貸A住戸、LDKから寝室までを見る。一続きになった空間は道路側にリビング、奥に寝室を配置し、騒音も考慮した。道路側にある窓に加えて、写真正面の窓からもテラスを通して光が入るためLDKはいつでも明るい。寝室からはテラスに出ることもできる
賃貸A住戸、1階テラスから吹き抜けを見上げる。黒い枠のフレームがアクセントになり、とてもかっこいい。「見上げたときの風景を大切にしました」と平井さん。くりぬかれた壁面から空が大きく見えるので閉塞感もなく、落ちてくる光で明るく気持ちいい場所になっている
賃貸B住戸、3階LDKの一角。周辺は2階建ての家が多いため、3階のLDKは見晴らしがよく、カーテンや窓を開けても人の目が気にならない
施主様のご自宅、贅沢に空間をつかったLDK。床材はオーク材を、壁面は卵の殻を原料にした「エッグペイント」で塗装しナチュラルな雰囲気に。エッグペイントは吸保湿性があるほか、化学物質が含まれていないので、小さなお子様がいらっしゃるご家庭にもおすすめなのだとか
2階、自宅LDKにつづくバルコニーは、アルミ製の稼働ルーバーのおかげで隣家の気配を感じることなく光と風を室内まで通すことができる。バルコニーの奥は吹き抜け。隣り合うことで視線が抜けバルコニーがさらに広く感じる
洗濯物干しのことを考え写真の手前にあるバルコニーから、奥に見える家事室まで動線を一直線に確保した。右に見える階段の奥に洗面所や浴室、トイレがある。水回りのエリアからも家事室へ抜ける扉を設けたことで、どこからでも家事室にアクセスしやすくなっている
1階、自宅の玄関から階段につづくホールを見る。正面には以前の自宅の塀に使われていたものと同じ素材、大谷石を貼った。「昔の自宅からのものを、雰囲気や仕上げで残せたらいいとS様と話していました」と平井さん。子ども部屋にはお嬢様からのご要望で柱を移植したという