豊かな緑を絵画のように楽しむ
環境を活かし切る、のびやかな住まい

鎌倉の緑深い住宅街に立つA邸は、緑を絵画のように楽しむ ピクチャーウインドー、ヴィンテージ感漂うデザインなど何気ない日常をランクアップさせる要素が盛りだくさん。
株式会社desus(デサス)建築設計事務所(以下desus)ならではのセンスあふれる設計で、友人を招きたくなる魅力的な住まいとなった。

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北欧の巨匠の作品を思わせる佇まい。
緑が映えるシンプルモダンな邸内も魅力

鎌倉の緑深い住宅街に立つA邸をひと目見たとき、施主さまの要望の1つが「アルヴァ・アアルトのような家」だったというエピソードに深く頷いた。

アウトラインがすっきりと洗練され、それでいて白い外壁タイルやあめ色の木製窓枠など、周囲の自然と馴染む有機的なヴィンテージ感も醸すA邸は、まさにフィンランドの近代建築の巨匠であるアアルトの作品を彷彿とさせる。設計を担当したdesusの稲垣裕行さんと花形将壽さんは、施主のAさま夫妻のリクエストに見事に応えたといえるだろう。

建設予定地を初めて訪れたとき、敷地の横を流れる水路に着目したという稲垣さん。「水路の対岸を覆う豊かな樹木を見たとき『これだ!』と思いました」と、大きなピクチャーウインドーとテラスで緑の借景を贅沢に取り込むプランを提案した。

さらに、自然と調和する住宅を得意とするdesusはクオリティの高いアイデアと設計力で、緑との一体感と空間美を最大レベルにする工夫も施した。

「テラス側の床は一段下げて屋外とのつながりを強調。窓枠は床より下に入れ込み、ロールスクリーンも上部の壁の中へ引き込めるようにしています。こうして窓枠が気にならないように設計すると、邸内~テラス~緑の一体感がいちだんと高まるんです」

その言葉どおりA邸のLDKは、家の中にみずみずしい緑が息づくような不思議な開放感に満ちている。また、窓枠という余計なものを極力隠したことで、建築としての空間美もいっそう研ぎ澄まされている。

空間の美しさは漆喰やヒバパネリングの壁、節のあるオークの床といったこだわりの内装に加え、オープンなリビング内階段や造作棚など、desusがデザインした建具や家具の存在によるところも大きい。階段は継ぎ目をなくすためにジグザグにカットした一枚板をわざわざ用意して側面に使用するなど、細部まで徹底して美しく仕上げている。

一つひとつ吟味されているが奇をてらったところはなく、街の景観の中での在り方も、内部空間もいたって素直。なのにA邸には「ほかとは違う」上品な質のよさ、絶妙なセンスで生まれるモダンな魅力が確かにある。そう感じられる家づくりは、実はものすごく難しいことだろう。でもdesusの2人はそんな難しい表現を、当然のように(というふうに見える)やってのけるのだ。
  • 白い外壁タイルと木枠の窓、水平ラインの美しさが際立つA邸。フィンランドの近代建築の巨匠であり、デザイナーとしても名高いアルヴァ・アアルトの作品を思わせる外観は謙虚な佇まいながら、通りゆく人の目を引く独特の存在感

    白い外壁タイルと木枠の窓、水平ラインの美しさが際立つA邸。フィンランドの近代建築の巨匠であり、デザイナーとしても名高いアルヴァ・アアルトの作品を思わせる外観は謙虚な佇まいながら、通りゆく人の目を引く独特の存在感

  • 水路側の外観。通りから見える吹抜けのハイサイド窓は木枠を用い、自然豊かな街並みに溶け込む佇まいに

    水路側の外観。通りから見える吹抜けのハイサイド窓は木枠を用い、自然豊かな街並みに溶け込む佇まいに

  • リビングから道路側を見たところ。リビングはダイニングより少し床を下げ、天井の高い空間とした。軽やかにデザインされたリビング内階段のまわりは吹抜けになっており、上部の窓から明るい自然光が降りそそぐ。写真右の造作棚もデザイン性が高く、空間を彩るオブジェのよう

    リビングから道路側を見たところ。リビングはダイニングより少し床を下げ、天井の高い空間とした。軽やかにデザインされたリビング内階段のまわりは吹抜けになっており、上部の窓から明るい自然光が降りそそぐ。写真右の造作棚もデザイン性が高く、空間を彩るオブジェのよう

友人を招きたい、居心地のよい開放空間
安心できる住まいとしての頼もしさも

現在、ご夫妻2人で暮らすA邸は、1階がLDK、2階が寝室、個室、水まわりという構成。主な生活スペースである1階は「高い天井」「明るさ」という奥さまの要望に応え、テラス側の床をスキップダウンさせて天井を高くし、リビング内階段のまわりは吹抜けとした。この吹抜けにはハイサイド窓があり、上部からそそぐ明るい光がリビング~ダイニングまで届いてとても居心地がいい。

ダイニング側にあるオールステンレスのペニンシュラキッチンの奥には、広いパントリー。セミプロ級の料理の腕前をもつご主人の希望を取り入れたスタイリッシュなキッチンは、高級レストランの厨房のようでもある。

キッチンはウォルナットの一枚板でつくった大きなダイニングテーブルとほどよい距離感。来客時も料理しながら会話ができそうだと思ったら、実際、Aさま夫妻は頻繁にホームパーティーを楽しんでいらっしゃるという。

A邸のLDKはテーブルまわりやリビングのほか、ベンチにもなるリビング内階段など、そのときどきの気分で選べる居場所が多い。つい最近もパーティーに招かれたという稲垣さんいわく、「ときには10人近くのゲストが集まることもあります」。それでも窮屈さは全くなく、ゲストは思い思いの場所でゆったりとくつろぎながら、ご主人の手料理と気のおけないおしゃべりを楽しむ。

暮らしを満喫できる上質な空間美に目が行くA邸だが、実は長期優良住宅に認定されている。耐震等級も、最もレベルが高い3を取得。安全性もしっかり兼ね備えた住宅だ。

desusの家づくりの特徴の1つは、施主さまに寄り添う十分な対話にある。施主さまの思いにじっくりと耳を傾け、プロの視点で解釈し、プロの技で形にする。

私たちが家をつくるときに思い描く「住まいへの夢」は、快適性や安全性など、現実的な視点が抜け落ちていたりするものだ。でもdesusの2人なら、夢の落とし穴を温かくサポートし、とりとめのない理想も、家族を守る頼もしさもかなえた住まいをつくってくれる──。A邸を見ていると、そんなうれしい期待を抱かずにはいられない。
  • リビングからダイニングを見たところ。外部の視線が気になりにくい位置に適宜窓がつくられ、外とのつながりを感じられる。写真左はバイオエタノールを用いるエタノール暖炉で、こちらも造作したもの。薪の暖炉と同様に暖を取れるが、メンテナンスはほぼ不要で使いやすい

    リビングからダイニングを見たところ。外部の視線が気になりにくい位置に適宜窓がつくられ、外とのつながりを感じられる。写真左はバイオエタノールを用いるエタノール暖炉で、こちらも造作したもの。薪の暖炉と同様に暖を取れるが、メンテナンスはほぼ不要で使いやすい

  • オールステンレスのスタイリッシュなキッチン。壁の一部に用いられたコバルトブルーのタイルが高級感を演出

    オールステンレスのスタイリッシュなキッチン。壁の一部に用いられたコバルトブルーのタイルが高級感を演出

  • 1階LDKから屋外の緑を見たところ。窓枠を極力隠した大きな窓はとても美しく、広がる景色を邪魔しない。床は表情のある無垢のオーク、壁は漆喰、ダイニングテーブルはウォルナットの一枚板と、一つひとつ丁寧にセレクトしてつくり上げた

    1階LDKから屋外の緑を見たところ。窓枠を極力隠した大きな窓はとても美しく、広がる景色を邪魔しない。床は表情のある無垢のオーク、壁は漆喰、ダイニングテーブルはウォルナットの一枚板と、一つひとつ丁寧にセレクトしてつくり上げた

間取り図

  • 間取図 1F

  • 間取図 2F

  • 断面図

基本データ

作品名
水路沿いの家
施主
A邸
所在地
神奈川県鎌倉市
家族構成
夫婦
間取り
2LDK
敷地面積
149.7㎡
延床面積
112.61㎡
予 算
4000万円台