愛知県犬山市。一面に田んぼが広がるのどかな雰囲気のなか、温かみがあるシンプルな木の家が建っている。風景になじみながら、同時に人の目を引く不思議な魅力をもつ家だ。この家を設計した、建築家の伊原洋光さん・みどりさん夫妻が語る「静かにデザインする」という言葉の意味を、このY邸から探ることにしよう。
この建築家に東から見たY邸。三角屋根の下部分にリビングや玄関、緩やかな角度の部分に寝室などパーソナルな部屋がある
エントランスと、それに続く個室1はコンクリート床の土間になっている。現在は自転車やキャンプ用品の収納、メンテナンス場所として使用しているとのこと。扉は引き戸で、自転車やベビーカーが乗り入れやすい。「サーマスラブ」によって冬の間も床面が暖かく、快適に過ごせる
家のどこからでもアクセスしやすい場所にコモンシェルフを設置。部屋にとらわれずどこにでも収納できる
開放的で風通しが申し分なく、気持ちよく過ごせるダイニングキッチン。画像奥、西側の窓はLow-E複層ガラスを使用することで西日の問題を解決し、眺望を楽しめるように。テーブルは造作で、奥の一段高い部分は作業台になっており、日常的に使う鍋や皿、調理家電などを収納する
以前から立ち並ぶ家々や田んぼの景観を損なわず、けれども不思議と目を引く佇まい。田んぼだったことをイメージさせる、フラットな庭も特徴的だ。「家が建った当初は、少し離れたところから家を眺めている人がいたり、新しいお店ができたのかと訪れる人もいたそうです」と洋光さん
北東に位置する寝室。北側は要望もあり、一番低いところで1900mmにまで抑えた。コンパクト感が際立つ
奥のダイニングキッチン、手前のリビング、右側にあるコモンシェルフは、家具や柱で緩やかに仕切られているが、天井は繋がっているため空間に一体感がある。照明の光は天井の勾配に反射し、優しく広がる。調光可能な間接照明と組み合わせれば、さまざまな雰囲気をつくり出せる
屋外との境界が滑らかで、光や風を自然と感じられるダイニングキッチン。壁面に使用したレッドシダーは、シルバーグレーに経年変化していく。庭には初夏に美しい花をつけるヤマボウシや、秋の黄葉も見事なカツラの木などを植樹した。これからの成長も楽しみのひとつ
撮影:Shigeo Ogawa