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撮影:山本明   

標高1230㍍の山小屋ならではの、妻や仲間との週末生活とは?

2017年01月05日 ── 山梨県・家づくり ── 28451

 切り立った山の斜面にポツンと建つ山小屋。この小さな別荘の持ち主は、退官後も精力的に活動する、建築家の樋口善信さんの指導教官Y先生とその奥様。山の空気に包まれた小屋には先生を慕って、学生たちも集まってきます。

書いた人 茅野小百合

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    作った人 樋口 善信

    住んでいる人 夫婦

    週末にこもる山小屋ならではの採光、暖房の工夫とは
    • 撮影:山本明

      土間の書斎スペース。窓を開ければ、山の音も空気もそのまま届く。山にこもりたいという願いにピッタリの場所だ。

    • 撮影:山本明

      書斎スペースの窓の前はアプローチ。斜めに停まった車が傾斜のきつさを物語る。

    • 撮影:山本明

      1階のスノコ床の居間の一角。窓一面に見える木々に囲まれ、山のなかにいることが実感できる。

     とある正月、建築家の樋口さんのもとに一枚の年賀状が届いた。差出人は樋口さんの大学時代の指導教官であったYさん。Yさんは既に退官しているものの、現在も非常勤で都市計画や景観・地域デザインの概論を教えている。年賀はがきには「こんな建物をつくりたい」と、そのまま工事に移れそうなほど具体的な図面が書き込まれていた。先生は山中湖を囲む山のひとつに、ここぞという場所を見つけ、構想を練っていたのだった。

    「別荘が立て込んでいるところを抜けた、山頂に近いところです。そこより上にはもう仙人と呼ばれるような人が住んでいるきりで。別荘地ではありますが、先生から言わせると、この建物はいわゆる別荘ではないんです。別荘というものはもっと邸宅のようなところで、これは「山小屋」だ」と樋口さん。

     たしかに、5.5m四方の建物は小屋といった方がしっくりくるサイズ感だ。2階は布団を敷いただけでいっぱいになる寝室、1階は最小限の水周りとバルコニーの方が大きい居間。玄関のある地階は書斎スペースとして使われている土間。ほぼ毎週末ここで奥さまと過ごしているというから、これが最小限の大きさだろう。

     Yさんは既に退官しているものの、現在も非常勤で都市計画や景観・地域デザインの概論を教えている。土間になっている書斎スペースでは仕事をすることもある。机の前の窓にはガラスはない。板戸をあけると、目に入るのは山の景色が飛び込んでくる。吹き抜ける風が山の空気を運んでくる。隠れ家のような暗い書斎をほの明るくするのは、1階のスノコ床から落ちてくる光だ。「IT機器も昔から使いこなしてらっしゃって、通信環境もご自身で整えられたみたいですね。研究室からかと思ったら、この山小屋からメールが来ていたこともありましワークスタイルとしてもはや固定された仕事場は必要のない時代を先取りしていました。」と樋口さん。


     仕事をしたり、草刈りをしたり、薪ストーブに使う薪を割ったり。山小屋で過ごせば、やることは山ほどある。ご自宅マンションを離れ、自然のなかで羽を伸ばせる山小屋はYさん夫婦にとって欠かせない場所になっている。

     山小屋がたっている場所は標高が1230mと高く、8月終わりには上着が必要で、冬になると厳しい冷え込みになる。それでも、ご夫婦は山にこもりに行くという。周りが氷点下でも小さな山小屋は薪ストーブを焚けば、すぐに暖まる。教授のアイディアでスノコにした1階の床は、暖かい空気を行き渡りやすくする効果もあった。


     Yさんが「山中庵」と名付けたこの山小屋には、学生たちも遊びに来る。雄大な山の景色と一体になれるバルコニー。続きになった居間では、学生たちとお酒を酌み交わす。1階のスノコ床からは下の土間に枝豆が落ちていることもあるのだとか。キャンパスを離れ、山小屋の床に車座になって先生と話す時間は学生にとっては貴重なものだろう。

     研究室の学生たちにも親しまれ、そして何より、Yさん夫婦が愛着をもって住まう山小屋。最小限でも豊かに暮らせるとはこういうことかと教えてくれる。

    • 撮影:山本明

      窓を開け放つと「空の間」と名付けられたデッキとひとつながりに。清々しい空気を堪能できる。近隣の別荘でデッキが腐っている家を多く見かけたため、この山小屋では鉄骨で支えることにした。

    • 撮影:山本明

      山小屋らしい切り妻の屋根の形は教授の最初のスケッチからあった。右手の屋根裏のようなスペースは「宙の間」。寝室として使われている。

    • 撮影:山本明

      四半敷(しはんじき)にした地階の土間。鹿やクマも出る自然豊かな場所。このガラス窓越しに、キツネやタヌキと目が合うことも。

    自分の住まい方に責任を持てば、理想の空間を追求できる
    • 撮影:山本明

      スノコ床からの光が落ちてくる土間。1階につながる階段は部屋側の手すりをつけなかった。10年近く経った今は、元気な教授もさすがに夜は手すりがあった方がいいかもしれないと思い始めているそう。

    • 撮影:山本明

      1階のデッキにももちろん、視界を遮る手すりはない。樋口さんがお子さんを連れて訪れたときには、あちこち危ない場所があり、大人のための場所だと再確認したという。

    • 撮影:山本明

      山中湖を望む山のなかに「山中庵」はたっている。敷地がどこも傾斜しているため、工事中は大工さんたちが平らな場所を求めて、切り株の上に立って休んでいる風景が見られた。

    Photo:山本明

    • 2007年からは学生の製図の授業の教材にもなっている。計画中には、教材にするため全種類の構造を使ってほしいという要望もあった。

    2007年からは学生の製図の授業の教材にもなっている。計画中には、教材にするため適材適所にコンクリート、鉄骨、木材を配し様々な構造を使ってほしいという要望もあった

     この山小屋ができた頃、滞在するお客さんに手渡していた書類があった。それは、ここで何か起きたとしても自分の責任だという趣旨の念書。2階の居間から続くバルコニーは手すりがない。山道にある大きな岩の上にいるぐらいの注意力がなければ、簡単に落っこちてしまう。酔っぱらってフラフラ外に出ないよう自制してくださいねと、遊び心も交えつつ、注意を促すものだった。

     小さな山小屋には、一般的な住宅の感覚では住めないところも多々ある。2階から1階に降りる階段は何度も話し合ったところだ。手すりをつけなければ空間をスッキリ広く見せられるが、ちょっと足を踏み外すともう支えになるものがない。フルマラソンも走るほど足腰の丈夫な先生だが、一緒に住む奥さまは? 今後、年をとったら? 設計者としては心配も尽きなかったという。それでも大丈夫という先生の言葉を信じて、手すりは壁側に設置した。水周りも浴槽とトイレはギリギリ足が入るぐらいの近さに寄せている。一般住宅では考えられないが、これも実際に住む先生がメリットデメリットを自覚して選んだ結果。

    「住宅って、それでいいと思うんです。メーカーがつくるわけじゃないですから。先生もこちらを分かっていて任せてくれた面もあると思います。これがもし知らない相手だったら、お互いにリスクを考えて、ひたすら安全な方をとっていたかもしれません。それでは楽しくなかったでしょうね」と樋口さん。

     もともと研究室を選んだのは、自分の論理を押し付けず学生の意見に耳を傾けてくれる先生だったから。10年を経て、実務経験を積んできたプロとクライアントとして向き合った今回も、話し合いを重ねることで、大人が楽しめる山小屋が実現した。

    お金について

     傾斜地では基礎にお金を取られてします。地盤の状況を鑑みながら、最小限のコンクリート量となるよう設計していった。土間部分の床は、お寺で見かけるような瓦の四半敷(しはんじき)様にしたいという希望があったがコストが合わなかった。日が入ると鈍く光る雰囲気を予算内で再現するため、左官屋さんに瓦のような色をつくり、石を並べたような目地を入れて仕上げてもらった。

    土 地 : 坪 非公開
    +
    建 物 : 坪 非公開
    +
    設計・管理費 + 諸経費 + 別途付帯工事費

    作った人 樋口 善信

     都内でも傾斜地のような特殊な土地は平地に比べて安いため、設計で工夫してもらって安くあげたいと考える方もあります。しかし、そういった土地は住めるようにするまでに自費工事が発生します。排水や電気・ガスなどのインフラを引き込んだり、家の土台になる基礎の工事をしたりすると結局、平地と変わらない金額になることもあります。一面的に値段で捉えず、その場所でどういう生活をしたいかをイメージできると良いですね。

    スペック
    所在地
    山梨県南都留郡山中湖村
    家族構成
    夫婦
    構造
    RC造+木造(一部、鉄骨造)
    規模
    地下1階、地上2階建て
    設計期間
    2004年05月~2005年07月
    施工期間
    2005年09月~2006年08月
    竣工年月
    2006年2006月
    敷地面積
    423.51㎡
    建築面積
    37.73㎡
    延床面積
    71.64㎡
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