家族の暮らしがストンと納まる、工夫に満ちた普段着仕立ての家 | KLASIC[クラシック]

KLASIC

TOP > 家づくり > 家族の暮らしがストンと納まる、工夫に満ちた普段着仕立ての家

(写真:中村絵)   

家族の暮らしがストンと納まる、工夫に満ちた普段着仕立ての家

2017年01月19日 ── 埼玉県・家づくり ── 70990

 「家の設計とは、そこに住む家族の普段着を仕立てる作業だと思います」と語る石井大吾(いしい・だいご)さん。石井さんが実の姉一家のために設計したのは、安心・安全・暮らしやすさを第一に考えた家。不要なコストを大胆にカットしながら、優しい配慮でワクワクするような暮らしを実現した。普通なのに、普通じゃない、魅力的な住まいを訪ねてみた。

書いた人 KLASIC編集部

この記事をスクラップする

この記事をスクラップした人

一覧で表示

    作った人 石井 大吾

    住んでいる人 夫婦+子ども

    標準規格の設備を使いながら、細かな工夫で個性的な家を実現
    • (写真:中村絵)

      玄関は引き戸。両手がふさがっていても開けやすいと大好評だ。「この扉だけは予算を割いて良い素材を使っています」とのこと

    • (写真:中村絵)

      玄関を入ると、すぐ右に手洗いボウルがある。左の扉を開けると、すぐにLDKとなる

    • (写真:中村絵)

      リビングの入口から見た玄関の内側。奥の戸を開けると約2畳の大型収納で、ベビーカーやおもちゃが入っている

     埼玉県越谷市の住宅街に、2015年3月に竣工したT邸。石井さんの実姉ご夫妻と6才、4才、0才のお子さんが暮らす家は、敷地約47坪、延べ床面積約35坪。2つの三角屋根が特徴的な2階建てだ。

     「身内の家だからといって、特別なことはしません。いつもの通り、じっくりと要望を聞いて、それを実現する最善策を考えました」。
     その言葉通り、石井さんがまず考えたのは、常に最重視する「基盤のしっかりした、安心・安全な家づくり」だった。
     「埼玉県の平野部は、昔は田んぼや沼の低湿地だった場所も多く、まず地盤の強度を確認する必要があります。今回も構造の専門家に依頼して、地盤改良も行い充分な強さのある基礎設計をしました当然基盤のコストは大きくなりますが、家は家族を守る場所である必要があります。安全安心な家をつくりたいですよね」。

     石井さんにとって、この予算配分は「想定内」のことだった。施主様が高級材にこだわらなかったこともあり、石井さんは手に入りやすい規格品を積極的に使用した。実はこれには、何重もの意味があった。
     「コストダウンはもちろんですが、一般的な既製品ならお子さんが汚したり壊したりしてもすぐに変えられます。私はリフォームも数多く手がけていますが、20年30年前の凝った仕様って、傷むと総取り替えするしかなくて費用や手間がすごくかかるんですよ。その点、規格品は常に取り替え可能ですし、デザイン的にも陳腐化しにくい利点もあります。家は必ず劣化するし、生活スタイルも変化します。設計時点で最高の状態を決めてしまう必要があるとは限りません。」

     1階のリビングやダイニングの壁は、一般的な白いクロス貼り。大きく取った窓のサッシも通常規格品。天井は構造が露出する造りだが、見える梁は安くて強い集成材だ。
     「無垢の梁はカッコいいですが、強度を保つには集成材よりも採寸の大きいものにしないといけなくて、この家には重厚すぎます。クロスというとシックハウスが気になるかもしれませんが、今は製品が改良されていますし、そもそもこの家は施主様と相談して『窓を開けて暮らす』ことを前提にしているので、空気がこもることがないのです」。
     東西南北、どちらにも建物が立っていないという開放的な立地なので、T様も「真冬以外は窓を開けています。1階も2階も風通しが良くて、とても気持ちがいいんですよ」とのこと。そんな暮らし方を踏まえての規格品活用なのだ。

     ありふれた設備も、工夫次第だ。たとえば玄関を入るとすぐに手洗い場がある。何でもない設備だが、これがとても便利だという。「主人が『露天風呂気分で入浴したい』と言ってバスルームを2階に設置したので、子どもたちが帰って来てすぐに手を洗えるように、私がお願いしました。ママ友からも『これ、いいわね』と評判なんですよ」とT様の奥様は言う。
     そのバスルーム横にある2階の洗面台にも工夫がある。「洗面に、深くて広い医療用ボウルを使用しました。業務用の機器は安価で丈夫で使いやすく、シンプルな機能美があるので、よく利用します」。
     T様の奥様も、その言葉にうなずく。「大きいから、みんなが一緒に歯を磨けます。3人目の子は、ここをお風呂にしていたんですよ(笑)」。

     バスルームのすぐ横には物干し用のバルコニーと、室内干し用の手すりがある。この動線の良さも奥様のお気に入りだそうだ。「ママ友にいちばんうらやましがられるのが、この室内干し場です。空気の動きがあるのか、雨の日でもよく乾くし、乾いたら隣の畳敷きの寝室にパッと入れておいて、あとでたためばいい。すごくラクですよ」。

     畳敷きといえば、T邸のリビングは施主様のご要望により最近では珍しい畳敷きだ。そのでき上がりは、施主様の想像を超えていたそうだ。
     「リビング全体を35cmほど高くしました。これは標準的な椅子の座面より少し低い程度で、ダイニングの椅子に座った人と畳に座った人の目線が揃います。さらにキッチンで作業する人の目線にも近い高さなので、コミュニケーションが取りやすいのです」と石井さん。
     試しにキッチンに立ってみると、ダイニングやリビングにいる家族の様子が、単に「見える」のでなく手に取るように「わかる」。しかも畳の下は広い収納スペースになっていて、T様の趣味であるアウトドア用品が余裕を持って片付けられる。一石何鳥もの良さを持つリビングとなったのである。

    • (写真:中村絵)

      階段の踊り場は本棚として活用。ちなみに階段の下は食品庫になっている

    • (写真:中村絵)

      階段を上がると、パソコンのあるちょっとした作業スペース。カーテンのある左の窓際が室内干しスペースで、右奥が畳敷きの寝室

    • (写真:中村絵)

      右上が収納用のロフト。天窓があるので、隠れ家スペースなど多彩な使い方ができる

    家族の暮らしがストンとはまる、そんな住まいをつくりたい。
    • (写真:中村絵)

      玄関ホールから見たダイニング。右上の小さな窓からはキッチンが見え、この窓越しに子どもたちはお母さんに朝夕のあいさつをするそうだ

    • (写真:中村絵)

      ダイニングと畳敷きのリビングルーム。8畳+αのリビングは絶妙の高さで暮らしのメインステージになっている

    • (写真:中村絵)

      リビングに使われているのは標準規格の素材。正面の障子は破れないビニール製で梁も集成材だが、いい雰囲気を出している

    • (写真:中村絵)

      リビングからキッチン方向を見る。畳に座るとキッチンで作業する人と視点の高さが合い、離れていても話が弾む

    • (写真:中村絵)

      2階の洗面。医療用の白くて深いボウルが印象的。「鏡の下に窓があって外光が入るので、お化粧もしやすいです」とのこと

    • (写真:中村絵)

      ロフトのある子ども部屋。雨の日も遊び場に事欠かない家である

    • (写真:中村絵)

      2階に2つある子ども部屋のひとつ。こちらにはロフトはないが、丈夫な梁にハンモックも吊すことができる

    • KLASIC 編集部

      残土を積んだ、庭の小山。ほんの50cmほどの山だが、子どもたちは大興奮で遊ぶ

     T邸の特徴は、元気な5人家族にふさわしい「楽しさ」も備えている点だ。
     2階には、子ども部屋と踊り場の上に、2つのロフトがある。「2つの三角屋根を設けたのは、このロフトを作るためです」と石井さん。ロフトは子どもたちの遊び場になるだけでなく、大人が楽しめる空間にもなっている。
     「子どものお友だちが来ると、家中で探検ごっこやかくれんぼが始まります。とにかく楽しくてしかたないみたいです。踊り場の上にあるロフトは収納スペースですが、天窓があるので、家族で月を眺めたりします。とても気に入っています」とT様。

     かくれんぼができるのは、部屋や空間が細かく区切られているからでもある。これも石井さんの工夫の一つだ。
     「2階は踊り場を中心に浴室、寝室、2つの子ども部屋と部屋割りをしています。踊り場には小さな台があって、パソコンスペースにもなっています。建築家によっては、こういう余白は極力設けず、大空間を中心に設計する人も少なくありません。でも、私は小空間派なのです。そのほうが熱効率もいいし、メリハリのある家になると思っています。そのなかで、住手が好きな場所や心地よい場所をたくさん見つけてくれたら嬉しいです。」

     1階のLDKも、仕切りの戸を閉めれば小さな空間となり、「真冬でも小さなヒーターひとつで温まります」とのこと。仲良く寄り添う家族には、ぴったりの間取りなのだ。

     最後にひとつ。庭にある不思議な小山が気になった。子どもたちの大好きな遊び場になっているのだが、実はこれ、地盤改良で出た残土を積み上げたものだそうだ。
     「土を処理するのにも費用がかかります。ならば山を作ったらどうかと相談したら、施主様も賛成してくださったので(笑)。結果的に、いいアクセントになりました」。

     石井さんにとって、設計とは「暮らしの質を上げる工夫」だ。
     「建築家と言うと、何かすごいコンセプトを提示する人みたいで、自分らしくない。私はデザイン=設計の力で、生活の小さな課題を解決する者でありたいのです。この家も、家族の暮らしがストンと納まるプランを、日々の生活から逆算して組み立てました。そこに住む人の普段着を仕立てるような設計を、これからも大切にしていきたいと思います」。

    スペック
    この記事をスクラップする

    この記事をスクラップした人

    一覧で表示

    お問い合わせ

    気になったところは聞いてみよう

    詳しく聞く(Q&A)

    関連記事

    人気記事

    密集地の課題を解決!ユニークなV字天井の賃貸戸建て住宅!?

    建築家の山崎さんが手がけたのは5戸の新築一戸建て。素材や空間・デザインなど細部までこだわった家は、なんとすべて賃貸である。その魅力的な仕上がりは注文住宅並みで、家づくりの参考になる点も多い。量産型が...

    KLASIC編集部

    24710

    人気記事

    異色の経歴を持ち、現場に強い建築家が目指す「手ざわりの建築」

     建築現場で鉄骨を組み上げる鳶(とび)の仕事を2年。建築現場の監督・施工管理を2年半。異色の経歴を積み重ねて、2013年に自身の設計事務所を立ち上げた期待の建築家がいる。1983年生まれの真島瞬(ましま・し...

    KLASIC編集部

    11340

    人気記事

    社会人2年目の営業マンの家づくりイベント体験記。

    『施主として自身にしか話せない暮らしへの深い想いを持っているかで、出来るお家の良さや納得感は全く変わってきます。どう暮らしたいかに向き合う事が、本当にいい家づくりのための大切な要素になります。』イ...

    KLASIC編集部

    12480

    人気記事

    近隣に囲まれた旗竿敷地、プライバシーと開放感を両立した二世帯

    マンション住まいをしていらしたご夫婦。ご主人のお母さまとの同居のための二世帯住宅をご希望されていました。近隣に囲まれた旗竿敷地にあるこのお家の特徴は、天井が高く吹き抜けで解放感がある2階に、ご家族...

    KLASIC編集部

    28940

    カテゴリ

    記事一覧

    オススメ記事

    クリエイター家族自ら提案!私も使いたいリノベコンセプトとは?
    敬老の日を前に考たい!二世帯が明るく、広々暮らす術とは?
    急斜面を逆手に絶好の借景! 目を落とせば室内にも本気の庭
    趣味も仕事も!「思い出の実家」のリノベは生き方をどう変えた?
    ほぼ事務所な空間を、すべて快適な家族の居場所に変えたリノベ

    週間ランキング

    【話題】こんな庭で遊びたかった!子どものための庭づくりのコツ
    【コツ】障子もカンタンリメイク!布×障子のオシャレインテリア
    家族の暮らしがストンと納まる、工夫に満ちた普段着仕立ての家
    ここまで開放的な平屋だから、自然満喫と落ち着く空間を両立!
    ローラのクリエイティブに脱帽!?リビングで美しさに息を飲む

    TAG一覧

    事例一覧